269 それなら違う

夏川澄花は意味深く「ふーん」と声を出した。

彼女はゆっくりと携帯を耳から離し、テーブルの上に置いて、スピーカーフォンにした。

白川蓮の声が一気に大きくなり、衣擦れの音までもがはっきりと聞こえた。

この時、夏川澄花も本題に入った。「そう、じゃあまず解毒剤を私に渡して。死ぬほどの苦しみに対してどれだけ恐れているのか、見せてもらおうかしら?」

白川蓮は眉をひそめ、彼女を睨みつけた。「何を言ってるの、夏川澄花。蘇我紬はあなたの言う解毒剤なんて見つけてないわ」

「人が見つからないからって、先に要求できないわけ?あんた自分が何者か分かってんの?そんな嘘を信じると思ってるの??」

夏川澄花の言葉の応酬に、向こう側の白川蓮は言葉を失った。

蘇我紬はこちらで聞いていて、思わず拍手喝采し、夏川澄花に向かって無言で拍手を送った。

夏川澄花はくすくすと笑い、蘇我紬を見る目は愛らしさに満ちていた。

白川蓮は向こう側で、感情が極端に悪化し、顔全体が醜く歪み、特にその目は携帯を見つめ、まるで千本の矢を放って夏川澄花を傷つけたいかのようだった!

しかし、頭の中でどれだけ想像しても、まな板の上の鯉という状況は変わらなかった。

夏川澄花の明るく傲慢な笑い声を聞いて、白川蓮は歯ぎしりし、口の中から血の味がするまでになって、やっと我に返った。「解毒剤を渡すから、私を解放して。蘇我紬を探す必要もないわ。これまでの話は水に流しましょう」

白川蓮は自分が既に譲歩し、一歩引いたつもりだったが、返ってきたのは果てしない沈黙だけだった。

そして軽やかだが、嘲笑を含んだ笑い声。無関心さの中に軽蔑が混ざっていた。

「あなたの解毒剤が本物だって、どうやって確認できるの?やっぱり蘇我紬が戻ってくるまで待って、この薬が効くかどうか証明してもらわないとね!」夏川澄花は正々堂々と言い、その声は力強く響いた。

「嘘なんかつかないわ!私、白川蓮は自分の命を賭けた冗談なんて言わない!」

白川蓮の声は次第に大きくなり、その怒りの炎が伝わってきた。

「信じられないわ、白川蓮。あなたは信用できない。この間、あなたについていろいろ聞いてきたわ」

「じゃあどうすればいいの?言う通りにするわ」白川蓮は気落ちした。ここから出られなければ、逆転の一手は打てない。

これは白川蓮にとって、良い仕事とは言えなかった。