316 君は綺麗だから

影山瑛志は久世澪との電話を切ると、すぐに夏川澄花の番号に電話をかけた。

この時、夏川澄花はすでに蘇我紬を自分の私邸に連れて来ていた。

夏川澄花は着信を見て、蘇我紬を見つめながら、「紬、影山からの電話よ……」

蘇我紬は夏川澄花に微笑みかけ、「大丈夫、私がここにいることは言わないで」

夏川澄花は軽くため息をつき、通話ボタンを押してスピーカーフォンにした。

電話が繋がるや否や、夏川澄花が話す前に影山瑛志の声が聞こえてきた。「澄花、紬は君のところに来てないか?夜に帰ってきたら部屋にいなくて……彼女の安全を確認したいんだ」

影山瑛志は考えた。蘇我紬は昨夜のことでまだ傷ついているはずだ。夏川澄花が側にいて慰めてくれれば、少しは気が紛れるかもしれない。

しかし、その言葉は蘇我紬の耳には、影山瑛志がその件を気にして、自分を探しに来たくないのだと聞こえた。

蘇我紬の心は苦しくなり、胸が大きな手で掴まれているかのように痛んだ。

夏川澄花は少し黙った後、蘇我紬を見つめ、「紬は……」

蘇我紬は苦しそうに首を振り、涙が止めどなく流れ出した。

夏川澄花も胸が痛くなったが、蘇我紬の意思を尊重して、「紬はここにいないわ。今朝、あなたと一緒に帰ったんじゃないの?また見失ったの?」

より本物らしく聞こえるように、夏川澄花は焦った様子を演じるしかなかった。

「……」向こう側が沈黙した。

影山瑛志は疑うことなく、深いため息をついてから、「すまない、僕が悪かった」と言った。

夏川澄花は演技を続けられなくなり、急いで言った。「早く探してあげて。女の子一人で外にいるのは危ないわ。昨夜みたいに連絡が取れなくなったら、それは影山あなたの責任よ!」

影山瑛志はハンドルを握る手に力が入り、しばらくしてから「ああ」と一言だけ返した。

夏川澄花は電話を切り、蘇我紬を慰めようとした。「紬、一体何があったの?私に話してみない?何か力になれるかもしれないわ」

しかし蘇我紬は拒むように首を振り、絶望的に目を閉じ、涙が頬を伝った。「澄花、あなたには何もできないわ。私と影山は……もうこれで終わりなのかもしれない」

夏川澄花はため息をつき、それ以上は聞かなかった。

彼女は知っていた。蘇我紬の性格上、自分から話したくないことは、誰が強要しても無駄だということを。