315 蘇我紬が消えた

蘇我紬は首を振って、「いいえ、彼は何も悪くないわ。私が彼に申し訳ないことをしたの」と言った。

夏川澄花は心配そうに蘇我紬を見つめて、「紬、昨夜一体何があったの?昨夜久世叔母があなたがいないことに気付いて影山さんに電話したの。影山さんはすごく心配して、私にあなたが一緒にいないか聞いてきたけど、私も新條社長と帰った後はあなたがどこに行ったのか分からなくて」

夏川澄花は以前蘇我紬をいじめていた影山瑛志のことは嫌いだったが、昨夜影山瑛志が蘇我紬の連絡が取れないと聞いた時の、あの必死な様子は今でも忘れられない。

夏川澄花は心の中で影山瑛志への見方が少し変わっていた。

蘇我紬は皆が心配してくれているのは分かっていたが、あんなことは口に出せるはずもなく、話題を変えて聞いた。「澄花、林与一という人をどう思う?」

夏川澄花は蘇我紬の言葉に込められた感情に気付かず、眉をひそめて考え込んだ。「結構いい人だと思うわ。義理堅くて親切だし、どう言えばいいかしら?まあ、『正人君子』って表現が合うんじゃないかしら」

正人君子。

蘇我紬は冷笑した。

もし林与一が本当に正人君子なら、どうして彼女が眠っている間にあんなことをしたのか?強制しないと言っておきながら、油断した隙にあんな卑劣なことをするはずがない!

蘇我紬の心の中で、林与一の優雅な印象は一瞬にして崩れ去った。彼女は俯いて、目に浮かぶ感情を隠しながら、小さな声で呟いた。「もしかしたら、あれは全部演技だったのかもしれない」

夏川澄花は当然聞き取れず、「紬、何て言ったの?」と尋ねた。

「なんでもない」

……

影山瑛志が夕食時に帰宅すると、蘇我紬の部屋のドアがまだ固く閉ざされているのを見て、心が沈んだ。

彼は階段を上がり、蘇我紬の部屋の前でノックした。「紬、一日中部屋にこもっているのはよくないよ。少なくとも出てきて何か食べないと、体が持たないよ」

返事はない。

影山瑛志は不安になって何度かノックを繰り返し、試すように呼びかけた。「紬?紬、聞こえる?返事してくれないか?」

それでも音沙汰がない。

以前は蘇我紬がどんなに悲しくて辛くても、一人で部屋に籠もっている時でも、ノックすれば話しかけてくれたのに、今日は……