外はいつの間にか雨が降り出していた。
土砂降りの雨。
蘇我紬は雨を気にもせず、夏川澄花に挨拶もせずにアパートを飛び出し、道で適当にタクシーを拾って影山邸へと向かった。
道中、蘇我紬は影山瑛志に何度も電話をかけたが、誰も出なかった。
影山瑛志は既に退院していた。医師は経過観察のため入院を勧めたが、彼は強く退院を希望し、誰も止められなかった。
蘇我紬からの電話は当然見ていたが、応答する勇気が出なかった。
彼は蘇我紬を信じていたが、あの動画を見たとき、心の中で何かが崩れ落ちた。そして蘇我紬が彼の目の前で林与一を庇う姿を見て、完全に崩壊してしまった。
「ごめんね紬、少し時間をくれ」影山瑛志は泣きながら目を閉じ、指の隙間から涙が滑り落ちた。
彼は聖人ではない。あの動画を無視することはできなかった。たとえ蘇我紬と林与一が相次いで説明したとしても、動画は確かに記録されていたのだ。
彼にはそれを無視することができなかった。
しかし、彼は蘇我紬への感情も理解していた。それは独占欲であり、偏愛であり、例外であって、単なる肉体的なものではなかった。
蘇我紬は急いで出たため、傘を持っていなかった。タクシーを降りるとすぐに影山邸の玄関へと走った。
ドアをノックする頃には、蘇我紬は全身びしょ濡れになっていた。「瑛志、家にいるのは分かってる。会って。話があるの!」
影山瑛志は下で全身濡れた蘇我紬を見ながら、会わないことを決意した。
一人で冷静になる時間が必要だった。
蘇我紬は何度もインターホンを押し続け、「会いたい」と叫び続けた。
影山瑛志はバルコニーに立ったまま、動かなかった。
どれくらい時間が経ったのか分からない。寒気が体に染みこみ、蘇我紬は思わずくしゃみをし、腕も疲れ始めたが、固く閉ざされた扉は開かなかった。
蘇我紬の声も嗄れ気味になり、次第に弱々しくなっていった。
影山瑛志が声を聞こえなくなってから、やっと冷静さを失い、何も考えずに階下へ駆け下りてドアを開けた。
小さな体は寒さのあまり、体を抱きしめて隅に丸くなっていた。蘇我紬は影山瑛志を見ると、ようやく苦い笑みを浮かべた。「瑛志……」
影山瑛志はもはや何も考えられず、前に進み出て蘇我紬をきつく抱きしめた。自分の服も濡れ始めることなど気にもせずに。