十分ほど歩いてから、夏川澄花はようやく立ち止まり、蘇我紬の目隠しを解いた。
蘇我紬のまつ毛が震え、ゆっくりと目を開けて、周りの明るさに慣れていった。
目に入ってきたのは数え切れないほどの花々で、まるで花の世界に迷い込んだかのように、芳香が鼻をくすぐった。
夜だったが、花々の上には小さな夜灯りが飾られ、花々をより一層引き立てていた。
蘇我紬が目を開けた瞬間、周りの人々が歓声を上げ、バラの花びらが敷き詰められた道が彼女の足元から伸びていた。その道の先には影山瑛志が立っており、巨大なキャンドルで作られたハートの中にいた。
蘇我紬は驚いて口を押さえ、鼻が詰まり、目に涙が溜まった。
彼女は一歩を踏み出し、影山瑛志に向かって歩き始めた。
一歩、二歩、三歩...九歩。
一歩一歩、蘇我紬は慎重に歩を進め、一歩一歩、はっきりとその感覚を感じ取りながら、最後の一歩でハート型のキャンドルの中に入った。
蘇我紬の心臓は激しく鼓動を打ち続けていた。
影山瑛志は先ほど彼女から取り上げたバラの花を手に持っていた。
彼女は影山瑛志を見上げ、その目にはうっすらと涙が光っていた。
影山瑛志の後ろには、数人が巨大な光るボードを掲げており、そこには順番に「蘇我紬、僕と結婚して」と書かれていた。
アイドルの応援のようなボードだったが、蘇我紬はそれでも感動した。
なぜなら、プロポーズしているのは彼、影山瑛志だったから。
彼女の心を揺さぶり、喜怒哀楽に影響を与え、愛と感動を与えてくれる、彼女がずっと結婚したいと思っていた人だった。
耳元では、人々の歓声が途切れることなく続き、中には「蘇我さん、結婚して!結婚して!」とはやし立てる人も出てきた。
人々は色とりどりのペンライトを振りかざし、その声が重なり合う中、影山瑛志は突然片膝をつき、大きな花束の中からリングケースを取り出して開け、そして深い愛情を込めて口を開いた。
「紬、僕が突然いなくなってしまったことを不思議に思っていたかもしれない。次々と子供たちが花を届けに来たことに戸惑っていたかもしれない。そして、本来ここにいるはずのない澄花が簡単にあなたを見つけられたことに疑問を感じていたかもしれない。これらすべての答えが、今この瞬間にある。」