340 あなたのために

「笑わせるな」と林与一は嘲笑った。「私と蘇我紬の間には何もない。紬は影山瑛志の婚約者だ。お前如きに彼らを引き離せると思うのか?あのビデオは偽物だと証明されている。騙されているのはお前だけだ」

「ビデオが偽物なわけがない!私の息子のことは誰よりも分かっているわ。あの女はもうお前と寝たのよ。お前も彼女が好きなのなら、なぜ手に入れようとしないの?私はあなたの母親よ。私の息子が幸せになれないのを見過ごすわけにはいかないわ。これはあなたのためなのよ!」

篠原澄佳は林与一の言葉を信じなかった。あの人は何度もビデオの真偽を保証してくれたのだ。彼女は心を痛めながら林与一に叫んだ。

しかしその言葉は林与一をさらに怒らせるだけだった。「私のため?口では私のためと言いながら、私の意思を尊重せず、ただ法律を学べと勧めるだけ?私のためと言って、人の妻を奪えというのか?」

「法律は確かに私の夢だったが、医学はもっと私の夢だ。蘇我紬と影山瑛志は相思相愛だ。私が彼らを引き離すことなどできない」

「もしそれが私のためだというなら、そんな私のためなど、私には耐えられない!」

林与一の目には篠原澄佳への失望が満ちていた。これほどの年月が経っても、彼女は自分のことしか考えていない。誰のことも考えていない。

篠原澄佳は興奮して林与一の両腕を掴み、激しく揺さぶった。「でもあなたは?あなたの幸せは?好きな女性が他人と結婚するのを見過ごすの?心が痛まないの?」

林与一はその場に立ったまま動かず、冷たい目で篠原澄佳を見つめた。「時には、好きだからといって必ずしも一緒になる必要はない。手放すことも愛の形だ。相思相愛は世界で最も美しいことなのに、なぜそれを壊そうとするんだ?」

「たとえ私が蘇我紬と一緒になったとしても、彼女が別の男のために憂いに沈むのを見て、私が幸せになれるとでも思うのか?母さんは私が何を望んでいるのか全く分かっていない。ただ自分勝手に久世おばに復讐したいだけだ」

篠原澄佳は久世澪を嫉妬していた。狂うほどの嫉妬だった。今やっと久世澪を不幸にできる機会を見つけたのに、どうしてそれを逃すことができようか?