351 喧嘩なんてしていない

影山瑛志はすでにベッドの前に駆け寄り、白川蓮を蹴り飛ばして蘇我紬の手を掴み、心配そうに尋ねた。「紬、大丈夫か?」

白川蓮は蹴られて横に倒れ、床に転がり、目の前の見覚えのある男性を呆然と見つめていた。

白川蓮の手が急に緩み、蘇我紬は首を押さえながら激しく咳き込んだ。

よかった、影山瑛志が来てくれた。

そうでなければ、本当に白川蓮に絞め殺されていたところだった。

蘇我紬は息を整えてから、携帯を取って影山瑛志に渡した。「大丈夫よ。あなたが必ず来てくれると分かっていたから、怖くなかったの。少なくとも証拠は手に入れられたわ」

「何よりもお前が大事だ。次はこんな危険なことはするな。今はもうお前一人じゃないんだから」影山瑛志は携帯を押しのけ、蘇我紬を丁寧に確認してから安心した。「お前が見つかった時、母子三人に何かあったらと思って、心臓が止まりそうだった」

蘇我紬は影山瑛志の声の緊張感を感じ取り、心が温かくなった。彼女は微笑みながら影山瑛志の頬を撫でた。「大丈夫よ。この苦労も無駄じゃなかったわ」

白川蓮はようやく我に返り、自分が何をしたのか理解した。彼女は自分の両手を呆然と見つめ、途方に暮れた様子で影山瑛志を見た。「瑛志、私は...」

影山瑛志は白川蓮の声を聞いただけで表情が冷たくなり、背を向けたまま振り向きもせずに冷たく言った。「警察が来るのを待て。説明は不要だ」

つまり、警察に説明しろということだ。

白川蓮は狂って人まで殺そうとした。何をしでかすか分からない。

しかも、一度に三つの命が危険にさらされた可能性がある。

影山瑛志は、もし自分がもう少し遅く来ていたら...と考えるのも恐ろしかった。

白川蓮はその言葉を聞いて、完全にパニックになった。しかし影山瑛志の冷たい態度は彼女を凍りつかせ、目の前の仲睦まじい光景は更に白川蓮の心を深く傷つけた。

影山瑛志と蘇我紬は喧嘩していたはずじゃないの?

どうしてここにいるの?

ぼんやりと、何かを悟ったような気がした。

突然、逃げ出したくなった。ここで警察を待って自ら罠にはまるわけにはいかない。

白川蓮は慌てて出口に向かって走り出したが、早乙女燐が突然ドアの前に立ちはだかった。

白川蓮は更に途方に暮れ、ドアの前で進むことも留まることもできず、振り返って影山瑛志を見た。「瑛志...」