警察署が橘健一の話を影山瑛志に伝えた時、蘇我紬はちょうど側にいた。
「白川蓮があなたのために、完璧だったはずの計画に、最後になって隙を見せるなんて」と蘇我紬は感慨深げに言った。
「この世に痕跡のない事など存在しない。白川蓮も例外ではない」と影山瑛志は淡々と答えた。
蘇我紬は頷いた。
白川蓮も自業自得だ。
橘健一が全ての首謀者は白川蓮だと認めたものの、有罪判決にはまだ時間がかかり、橘健一は白川蓮のいる警察署に移送された。
その日、白川蓮と橘健一は同時に新たな取り調べを受け、二人は別々の取調室に収容された。
白川蓮が取調室に連れて来られ、自分が裏切られたことを知ると、怒りで両手を握りしめテーブルを叩いた。「私を裏切るなんて!なら私も徹底的にやってやる。誰も良い思いはさせない!」
白川蓮の激しい感情は警察官の目に留まり、疑念が湧いた。
「白川さん、あなたは容疑者と面識があり、他の犯罪証拠も持っているのではないですか?」と警察官は探るように尋ねた。
白川蓮は自分を落ち着かせ、目を泳がせながら首を振った。「いいえ、ありません」
「白川さん、この言葉の意味はお分かりでしょう」警察官は鋭い目つきで白川蓮を見つめ、指でテーブルを叩き、横に貼られた横断幕を示した。
「真実を語ること」という大きな文字が白川蓮の目に映り、彼女はますます直視できなくなった。
話すわけにはいかない。話せば、出所後も何も残らない。
海外にいた時期も、あの人たちとの繋がりや弱みを握っていたからこそ、助けてもらえたのだ。
まだ影山瑛志を手に入れていない。この力を自分の手で潰すわけにはいかない。
白川蓮は必死に首を振った。「ありません!何度聞かれても、ありません!」
警察官はその様子を見て、記録係と目を合わせ、取調室を出た。
容疑者が自白しない以上、強制はできない。
もう一方の取り調べは続いていた。
「白川蓮とはいつ知り合ったのですか?」
「二年前です」
「彼女に何をさせられましたか?」
「多すぎて、覚えていません」橘健一は無感情に答えたが、突然興奮し始めた。「でも保証します。法律に触れることは絶対にありません。ただの些細なことだけです…」