372 兵は謀略を厭わず

影山瑛志は会社に向かう途中、林与一に電話をかけた。「林与一、事態が解決した。お母さんの動画は私と母が投稿したものではなかった。母のパソコンは動画を渡した時点で、ハッカーに攻撃されていたんだ」

「ハッカー?影山さん、そのハッカーを捕まえたんですか?」林与一の声には明らかに不信感が込められていた。

「犯人は海外にいるが、警察が動いている。すぐに逮捕できるはずだ」と影山瑛志は説明した。

林与一は考え込み、しばらく沈黙した後、「その人から直接聞かない限り、影山さん、こんな下手なハッカーの嘘は信じられません」

そう言いながらも、林与一の心の中の天秤は影山瑛志に傾いていた。ネット上の状況も見ていたし、あの動画のせいで影山家の会社の状況も良くなかったからだ。

影山瑛志も今すぐ信じてもらおうとは思っていなかった。最初は誰もこんな展開になるとは思っていなかったのだから。

「もうすぐだ」

……

蘇我紬は病院で二度目の切迫流産予防の注射を打ち、その間に影山瑛志からの良い知らせを次々と聞き、気分も良くなり、出血の症状もほぼなくなった。

二日後の再検査で、赤ちゃんの各項目の数値も正常で、蘇我紬も安心した。

夏川澄花もほっとして、蘇我紬と一緒に退院手続きをした。

手続きを済ませたところで、影山瑛志が病院に入ってくるのが見えた。蘇我紬は彼を見て目を輝かせた。「瑛志、来てくれたのね!」

「約束通り、迎えに来たよ」影山瑛志は近づいて自然に蘇我紬の手を取った。

夏川澄花は静かに二人から離れた。

影山瑛志は迎えに来ただけでなく、荷物の整理を手伝うおばさんも連れてきていた。

蘇我紬は心が温かくなり、「全部解決したの?」と尋ねた。

「ああ」影山瑛志は頷いた。「このグループには暗号があって、海外では捕まえにくかったから、暗号を使って彼らを騙して一網打尽にした」

あの日、橘健一は多くを語り、無意識のうちに暗号のことに触れ、隠そうとしたが、影山瑛志にそれを見抜かれていた。

影山瑛志は長い話を短くまとめ、この良い知らせを蘇我紬に伝えた。

蘇我紬は興奮して、「じゃあ、あの動画は…」

車に乗り込んだ蘇我紬は、期待に満ちた表情で影山瑛志を見つめ、続きを聞きたがった。

病院では結果だけ聞いていたが、過程についても知りたかったからだ。