378 選択権

「瑛志の心にはあなたしかいない。あなたがここにいる限り、彼は私と祖父の提案を受け入れて、私との結婚を承諾することはないでしょう。でも、もしあなたがいなくなれば、瑛志は考えを変えるかもしれません」

「私は白川蓮のような下劣な手段は使いません。自分の体面を汚すようなことはしたくありません。ただ選択権をあなたに委ねるだけです。どう選択するかは、蘇我さんのような賢明な方なら、きっとおわかりでしょう」

蘇我紬は軽く笑い、温かい水を一口飲んで気持ちを落ち着かせた。「江口さん、結局のところ、私に瑛志から離れてほしいだけですよね。でも、彼の気持ちを考えたことはありますか？それとも、将来あなたたちが幸せになれると確信していますか？それとも、ただの会社の提携関係に基づくパートナーですか？」

江口希美は少し戸惑い、蘇我紬がこれほど口が立つとは思っていなかった。彼女は笑いながら答えた。「それは蘇我さんが心配することではありません。蘇我さんが離れることさえ約束してくれれば、私には瑛志を好きにさせる方法があります」

しかし蘇我紬は首を振るだけだった。「江口さん、あなたは瑛志のことを理解していません。彼が決めたことは、誰のためにも揺らぐことはありません。あなたが瑛志に条件を出した時、彼が迷っていたというのも、私には信じられません」

江口希美はカップを握る手に力が入った。

先ほどの言葉は確かに蘇我紬を騙すためのものだったが、まさか蘇我紬がこれほど頑なだとは思わなかった。二人の関係を引き裂くのは更に不可能だった。

瑛志と蘇我紬の関係は、本当にもう誰も入り込めないところまで来ているのだろうか？

江口希美は無理に笑顔を保ちながら、蘇我紬を見た。「蘇我さんは瑛志のことをよくご存知のようですね」

「当然です。江口さん、他に用がないようでしたら、私はこれで失礼します」蘇我紬は江口希美とこれ以上関わりたくなく、立ち上がってカフェを出た。

カフェを出て、蘇我紬は再び江口希美の言った言葉を思い返した。その中には真実と嘘が混ざっていて、瑛志に確認してみないとわからなかった。

しかし、祖父と言えば、最近祖父に会いに行っていなかった。

祖父はどうしているだろうか。

この時間に家に帰っても昼寝をする気分ではなく、蘇我紬は考えた末、方向を変えて、タクシーで病院へ向かった。