385 私は嫁がない

「江口お爺様、ありがとうございます!」影山瑛志は喜びの表情を浮かべながら、江口天真と握手を交わした。「よろしくお願いします!」

話が終わると、影山瑛志は席を立って辞去した。

江口家の別荘を出たところで、帰ってきた江口希美と出くわした。江口希美は即座に影山瑛志の姿を認めた。

普段なら、このような出会いは彼女にとって嬉しいものだったが、今、影山瑛志の顔に隠しきれない笑みを見て、彼女の心は「ドキッ」と鳴った。

「瑛志さん、お爺様とどんな条件を話し合ったの?」江口希美は急いで前に出て尋ねた。「私と結婚しないって言ったの?」

帰り道で、江口希美は蘇我紬の言った言葉を何度も何度も考えていたが、影山瑛志がお爺様とどんな条件で交渉するのか想像もつかなかった。

今、影山瑛志があんなに嬉しそうに笑っているのを見て、彼女の心は乱れに乱れた。

「もちろん、江口お爺様の心を動かすような条件さ」影山瑛志は笑みを抑えながら、目の前の江口希美を見下ろした。「確かに君とは結婚しない。母に頼んで養女として迎えることにする。これからは妹として付き合おう」

江口希美はそれを聞いて、突然激昂し、影山瑛志に向かって叫んだ。「誰があなたの妹になんてなるものですか?私はあなたと結婚したいだけなのに!蘇我紬のどこがいいの?身分も釣り合わないのに。私には家柄もあるし、学歴だってある。私こそがあなたの隣に立つのに最もふさわしい人間よ!」

しかし、影山瑛志はそれを聞くと、突然表情を曇らせ、冷たく言い放った。「希美!言葉に気をつけろ!俺の心の中で、紬は最高の存在だ。誰も彼女には及ばない!」

「お前が俺のことを好きなのは、単なる執着に過ぎない。本当に結婚したところで、俺たちの間に愛情なんて生まれない。もう夢見るのはやめろ!」

影山瑛志はそう言い終えると、江口希美を避けて車に乗り込み、急いでその場を去った。江口希美は混乱した思考のまま、その場に取り残された。

夢?

江口希美は自嘲的に笑った。

彼女は幼い頃から影山瑛志のことが好きだった。たとえ十数年も海外で過ごし、数え切れないほどの求愛者がいても、彼女の心にあったのは影山瑛志だけだった。

でも彼女の好意は、影山瑛志の心の中では執着と定義され、彼は彼女が夢を見ていると言う?

いいえ、絶対に影山瑛志と結婚してみせる。