386 末期がん

江口希美は我に返り、頭の中が真っ白になりましたが、それでもまだ諦めたくありませんでした。「お爺様、これは影山瑛志の考えなの?私と結婚したくないから、近藤昭陽という男を見つけてきたの?でもお爺様、いつも私のことを一番可愛がってくれていたじゃない?私を信じてくれない?私と影山瑛志は必ず幸せになれるわ。私たちを認めてください!」

江口希美は胸を押さえ、今にも跪きそうでした。

しかし江口天真は動じる様子もなく、まるで心を鋼にしたかのようでした。

だが江口天真の心も苦しみに満ちていました。息子夫婦が亡くなった後、たった一人の孫娘だけが残されました。自分がまだ生きているうちは、彼女を甘やかしてあげられますが、残された時間はわずかでした。

「希美、お爺様は今回決心したんだ。この近藤昭陽という男も、よく考えた上での選択なんだ。お前は必ず嫁がなければならない!」江口天真は心の苦しみを必死に抑えながら、声を震わせて言いました。

しかし江口希美は頭に血が上っていて、江口天真の声に含まれる苦悩に気付きませんでした。「わかったわ。それなら私、影山瑛志のところへ行くわ!」

そう言うと、江口希美は外へ走り出しました。

「希美、戻っておいで!」

江口天真は江口希美を止めようとしましたが、年老いた体は若者のようには動けず、後ろから追いかけながら叫ぶことしかできませんでした。突然、胸に痛みを感じ、呼吸が困難になり、後ろへ倒れかけました。

「ご主人が倒れました!急いで救急車を呼んでください!」執事は状況を見て、すぐに江口天真を支え、周りの使用人たちに叫びました。

江口希美は叫び声を聞いて振り返ると、江口天真が目を閉じたまま執事に寄りかかっているのを見て、大きな衝撃を受けました。もはや影山瑛志のことは考えている余裕もなく、江口天真の側へ駆け寄り、心配そうに叫びました。「お爺様、お爺様、どうしたの?私を怖がらせないで!」

救急車はすぐに到着し、江口天真は病院に搬送されました。

「えっ?末期がん?残り三ヶ月もないって?」

江口天真が救急室に運ばれてから四時間後、江口希美は医師からこの悲報を聞き、その場で立っていられなくなり、よろめいて倒れそうになりました。

医師は残念そうに首を振りました。