時田浅子は案内係について入っていった。
周りを見渡すと、目に入るものすべてが言い表せないほどの贅沢さだった。
案内嬢が重厚な部屋のドアを開け、お辞儀をして時田浅子を中へ案内した。
この個室には、すでに数人の姿があった。
上座に座っているのは藤原奥様で、そばには執事と弁護士が控えていた。
斉藤愛梨と林清子は脇に座っていた。
普段は威張り散らしている母娘は、この時少し居心地悪そうで、まるで雲都の大富豪の奥様と令嬢にふさわしい姿を無理に作り出そうとしているかのようだった。
時田浅子は藤原奥様を観察した。きっと、彼女があの植物人間の母親なのだろう。
この藤原奥様は手刺繍の中国式チャイナドレスを着ていた。
少し福々しい体型のため、ゆったりとした着こなしで、威厳があり端正に見えた。
ただし、その眼差しには皮を剥ぐような鋭さがあった。
このような威厳のある人が、どうして小さな家の出身であろうか?
斉藤愛梨は毎日持ち上げられ、高級ブランドの限定品を何着か買っただけで、上流階級の奥様になれると思っているのだろう!
本当の贅沢品は、お金では買えない国の至宝なのだということを知らないのだ!
藤原奥様の視線は斉藤愛梨と林清子を通り過ぎ、最後に時田浅子に留まった。
時田浅子は落ち着いた様子で前に進み、少しの気取りも臆病さも見せず、藤原奥様の観察も恐れなかった。
「林奥様、この方はどなたですか?」藤原奥様は斉藤愛梨に向かって尋ねた。
「この子もうちの娘です。ただ、主人の前妻の子供なんです。この話を聞いて、すぐに息子さんとの結婚を承諾したんです。ご覧のように、私たちの家には婚約がありますが、うちのお爺さんはもう亡くなっていますし、それに、今どき婚約なんて時代遅れですよね。法律も認めていませんし。どちらも林家の娘なんですから、どちらが嫁いでも同じことじゃありませんか?」
藤原奥様は今日、信物を取り戻すつもりでやって来た。
斉藤愛梨と林清子に会ってみて、本当に気に入らなかった!
少し調べてみると、斉藤愛梨が不倫相手から正妻になったことを知った。
彼女が最も憎むのは不倫相手だった!
息子をそのような女性の娘と結婚させるなど、もっての他だった。
また、このような家族とのつながりも一切持ちたくなかった。
信物を取り戻し、この縁談をここで終わらせるつもりだった。
そうすれば藤原親父にも説明がつく。
しかし、時田浅子を見た途端、その考えは消えた。
この娘に、気に入った。
美しくて、清潔で純粋だった。
「私の息子の状況を知っていますか?」藤原奥様は時田浅子に尋ねた。
「知っています」時田浅子は頷いた。
「昏睡状態の人と結婚する気がありますか?しかも、永遠に目覚めない可能性もありますよ。一生彼の側にいて、決して離れられなくて、それでもいいですか?」
「はい、構いません」時田浅子は少しも躊躇わずに答えた。「ただし、一つ条件があります」
「どんな条件?」
「私は人間です。商品ではありません。私には人格と尊厳があります。息子さんと結婚した後も、私の自由を干渉しないでいただきたいです。学業も続けたいですし、将来は普通に就職もしたいです。家にじっとしているつもりはありません。外に出て働きます」
「藤原家の名誉を汚さず、息子を裏切らないのであれば、その条件を受け入れましょう。ただし、婚前契約を結んでいただきます」藤原奥様の返答はさらに簡潔だった。
時田浅子の心に、小さな違和感が生まれた。
まるで、彼女たちはビジネスの話をしているようだった。でも、これは本来結婚の話のはずなのに。
心の中の違和感を押し殺して、時田浅子は軽く頷いた。「わかりました」
弁護士が契約書を取り出し、時田浅子の前に置いた。
時田浅子は少し緊張した。
このような場面は、今まで経験したことがなかった。
さらに、自分が騙されるのではないかという不安もあった。