第12章：彼女は金を要求しに来たのだ！人の顔色を伺う必要があるのか

藤原家の人々は、時田浅子に対してとても丁寧で礼儀正しく、少しの怠慢も許されなかった。

このことに時田浅子は心が動かされた。

それは尊重されているという感覚だった。

「江川楓兄さん、御水湾（みずのわん）に行きたいのですが、送っていただけますか？」時田浅子は静かに尋ねた。

「はい、わかりました！」江川楓はすぐに頷いた。

1時間後、車は御水湾団地に入った。

相変わらず地味なフォルクスワーゲンだった。

外から見ると何の変哲もない。

しかし、時田浅子が中に座ると、間違った車に乗ったような感覚があった。

内装があまりにも豪華で快適だったからだ！

エンブレム以外は、彼女が知っている車とは何の関係もないように思えた。

車は林家の別荘の前で止まった。

「若奥様、一緒に中に入りましょうか？」江川楓は静かに尋ねた。

「いいえ、ここで待っていてください。すぐに戻ります。」時田浅子はドアを開けて車から降りた。

林家の門は固く閉ざされていて、彼女はインターホンを押した。

開けたのは林家の家政婦だった。

時田浅子を見るなり、軽蔑の表情を浮かべた。

「斉藤愛梨を探しています。」時田浅子は冷たく言った。

「今、林家には貴重なお客様がいらっしゃるので、あなたをお通しするわけにはいきません。外で待っていてください！」

言い終わるや否や、家政婦はドアを閉めようとした。

時田浅子は力強くドアを押し開けた！

今日は頼み事をしに来たわけではない！

家政婦の顔色をうかがう必要があるだろうか！

家政婦は油断していたため、ドアが鼻に当たり、痛みで悲鳴を上げた。

家の中では、二家族が楽しく談笑していた。

悲鳴が和やかな雰囲気を破った。

「宮本さん、宮本奥様、何があったのか見てきます。」斉藤愛梨は立ち上がって外に向かった。

室内では、会話が続いていた。

「聡明、たった十数年で雲都がこれほど大きく変わり、君が雲都の大富豪になるとは思わなかったよ。」

「宮本さん、からかっているのですか！あなたは海外でとても成功していて、バイオテクノロジー企業を持ち、最先端技術を扱っていると聞いています。それに甥の宮本凪は世界トップクラスの研究者ですよね。私なんかとは比べものになりません。私はただの成金です。」

「いやいや、そんなことはないよ！」

斉藤愛梨が外に出ると、時田浅子を見て顔をしかめた。

この時田浅子、どうしてこんなに早く来たのだろう？

もう半日で婚姻届を提出したのか？

その藤原家は本当に獲物を逃すのを恐れているようだ！

時田浅子と結婚すれば林家とつながりができると思っているのだろうが、その目論見は失敗に終わるだろう！

「今日はお客様がいらっしゃるので、あなたの件は話せません。また今度来てください。」斉藤愛梨は直接追い払おうとした。

「約束を破るつもりですか？」時田浅子は冷たく問いただした。

「約束？お金は私のものよ。あげると言えばあげるし、あげないと言えばあげない。まさか奪いに来たというの？」斉藤愛梨は腕を組み、顔に嘲笑を浮かべた。

「時田浅子、あなたは私に感謝すべきよ。こんな良い縁談を見つけてあげたのだから！」

時田浅子は前に出て斉藤愛梨の髪を掴んだ！その速さに斉藤愛梨は全く防ぐ間もなかった。

髪を引っ張られ、斉藤愛梨はバランスを崩して床に倒れた。

頭皮が引きちぎられそうになった！

時田浅子はお構いなしに、斉藤愛梨の髪を掴んで部屋の中へ引きずっていった。

リビングに座っていた数人は、この光景を見て驚愕した！

「時田浅子！何をしているんだ！やめろ！」林聡明は大声で叫んだ。

時田浅子は片手で斉藤愛梨を掴み、もう片方の手で携帯を取り出し、昨日の録音を再生した。

「でも、おばさんには方法があるわ。50万元を手に入れる方法よ。」

「どんな方法ですか？」

「あなたのおじいさんには親友がいて...」

「あの人と婚姻届を出せば、この50万元はお父さんに頼まなくても大丈夫。おばさんが自分のお金であなたに渡すわ。でも、婚姻届を見せるまでは、一銭も渡さないからね！」

この録音を聞いて、斉藤愛梨の顔色は極めて悪くなった。