第206章:心動だけじゃない

「藤原若旦那、今のはわざとでしょう?」時田浅子は思わず口を開いた。

「おじいさまが自分でそう言ったんじゃないか?」藤原時央は問い返した。

「あなたが殴られても全然惜しくないわ」時田浅子は小声で反論した。

藤原時央:……

時田浅子はもう話さず、窓の外を見つめた。

江川楓は中央車線で安定して運転し、わざと速度を落としていた。

後ろの車はどんどん近づいてきた。

「くそっ!奴らいったいどこへ行くつもりだ?」運転手は怒鳴った。

「わからないよ!」

「こうじゃ手出しにくいな!」

「もう少し距離を取って、チャンスを見計らおう」

前方は分岐点だった。江川楓は突然加速した。

「早く、加速したぞ!追いつけ!」後ろの車も加速し始めた。

江川楓はバックミラーで車間距離を判断した。

あの車は彼の右側にいた。

「藤原若旦那、若奥様、しっかりつかまってください!」

時田浅子はすぐに体のバランスを崩し、制御できずに藤原時央の方へ傾いていった!

藤原時央は片手で取っ手を握り、もう片方の手で彼女の肩を抱き、しっかりと彼女を腕の中に収めた。

車は素早く一番右の車線に移動し、本線から曲がった。

灰色の車は間に合わず、そのまま前方へ走り去った!

三人は同時に本線から外れた車を見て、怒りの表情を浮かべた!

「気づかれたのか?」

「前方でUターンできるか見てみろ!」

車は本線を降り、さらにカーブを走った。時田浅子はずっと藤原時央の腕の中にいた。

彼の体からは黒檀の香りが漂い、彼の印象そのままだった。

落ち着いていて、気品がある。

彼だけの香りを嗅ぎながら、時田浅子の心は穏やかになり、彼女が恋しくなる安心感も感じた。

車は安定して前進していた。

太陽はすでに山の向こうに沈み、西の空には夕焼けが漂い、暗闇が迫っていた。

藤原時央は取っ手を握っていた手をすでに離していた。

時田浅子を抱く腕は動かさなかった。

彼女の緊張を感じ取り、彼は彼女の背中を軽くさすった。

彼の手のひらから伝わる熱さに、時田浅子は全身の毛が逆立ち、呼吸も思わず荒くなった。

「あの車は振り切れた。江川楓が私たちを目的地に送った後、処理しに行く」藤原時央の声が彼女の頭上で響いた。

時田浅子はゆっくりと顔を上げた。

そのまま藤原時央の顎にぶつかった。