第210章:心惹かれていることに気づかない

「時田浅子、トイレに連れて行ってくれないか」藤原時央が突然口を開いた。

時田浅子はすぐに白沢陸の手から自分の手を引き抜き、藤原時央の背後に回って、彼の車椅子をトイレの方向へ押し始めた。

白沢陸:……

車椅子は自動じゃなかったのか、人が押す必要があるのか?

江川楓は藤原時央が立ち上がれるどころか、二、三歩歩けるとも言っていたじゃないか!

自慢だ!絶対に自慢しているんだ!

まさか自分がいつの日か、藤原時央の恋愛アピールを目の当たりにするとは思ってもみなかった。それも生で見せつけられるとは!

江川楓は藤原時央が離婚したいと言っていたって?

藤原時央の今の反応を見る限り、この結婚が終わるなんて死んでも信じられない!

数分後。

時田浅子と藤原時央がトイレから出てきた。

ちょうどその時、村上部長も人を連れて食事のカートを押して入ってきた。

メインディッシュは丸焼きの羊一頭で、残りの料理も非常に精巧に作られており、すべて時田浅子が見たことのない食材だった。

さらに、一人一鍋の小さな鍋料理もあり、しゃぶしゃぶの具材は特別に白い特大の皿に盛られ、これも一人一皿だった。

時田浅子はしゃぶしゃぶの具材をいくつか認識した。

彼女の腕よりも太いエビ、彼女の顔よりも大きい黒アワビ、そして奇妙な形のキノコ類もあった。

この一皿だけでも十数種類の材料があり、時田浅子が認識できるのはそのうちの三、四種類だけだった。

村上部長は料理を上手に配膳し、手慣れた様子でワインを2本開けた。

湖のような色の液体がクリスタルのワイングラスに注がれ、まさに視覚的な楽しみだった。その色を見ているだけで食欲をそそられた。

「お前が酒をおごると言ったから、一番高いのを選んだぞ」白沢陸は得意げに言った。

「ワイン2本くらいなら奢れるさ」藤原時央は淡々と応じた。

「おいおい、藤原若旦那は謙虚すぎるな。俺は2本だけじゃなく、あの箱ごと持って帰ったんだぞ」

「食事中にくだらないことをベラベラ喋るな」藤原時央は不機嫌そうに叱った。

「食べよう、食べよう」白沢陸はすぐにウェイターを呼んだ。

ウェイターの一人が時田浅子の側に来て、彼女の小さな鍋の料理を手伝った。

調理が終わると、様々なタレを添えて時田浅子の前の小皿に置いた。

「藤原奥様、どうぞごゆっくり」