藤原時央は手を上げて時間を確認した。「急いでいるんだ。」
そう言うと、車椅子を動かして外へ向かった。
時田浅子はすぐに追いかけ、彼の車椅子の手すりを握った。
「ほんの少しの話だから、時間は取らないわ。玄関まで送りながら話すわ。」
藤原時央の表情が曇った。
ちょうどその時、彼の携帯電話が鳴り始めた。
時田浅子は口を開こうとしたが、また言葉を飲み込んだ。
藤原時央は電話に出ながら、外へ向かった。
時田浅子は後ろについて行き、藤原時央を玄関まで送った。
江川楓は車で外で待っていて、時田浅子が藤原時央を送り出すのを見ると、顔に笑みがあふれた。
「若奥様、おはようございます!」
「おはよう。」時田浅子は挨拶を返した。
藤原時央は立ち上がってドアを開け、後部座席に座り、まだ電話を耳に当てていた。
江川楓は車椅子を片付けに行った。
時田浅子は車の外に立ち、藤原時央を見つめていた。
江川楓は片付け終わって時田浅子がまだいるのを見て、車のドアを開けて乗り込まなかった。
藤原時央は江川楓の方を見て、冷たい声で言った。「何を外に立っているんだ?」
「若奥様、それでは先に失礼します。」江川楓は時田浅子に挨拶してから車に乗った。
車が動き出し、藤原時央はようやく電話を置いて、時田浅子の方を見た。
「何を言いたかったんだ?重要なことか?重要でなければ、時間があるときにまた話そう。」
「じゃあ、後で電話するわ。」
「いいよ。」藤原時央はうなずいた。
窓が上がり、車はゆっくりと走り去った。
時田浅子は車に向かって手を振った。
藤原時央は車の後ろのその姿を見つめ、時田浅子が中に戻るまで視線を外さなかった。
「藤原若旦那、これは若奥様が初めてあなたを見送ったんですよ。まるで仲の良い夫婦のようでした。あなたは若奥様と一言も話したくないようで、ちょっと酷いですね。」江川楓は我慢できずに言った。
藤原時央は黙っていた。
江川楓の勇気はだんだん大きくなった。「若奥様はさっき何か言いたそうでしたよ。あなたはほとんど相手にしなかった。こんなに早く会社に行っても、特に用事もないでしょう。」
「彼女が何を言いたかったか知っているのか?」藤原時央は突然反問した。
「知りません。」江川楓は首を振った。
「知らないなら黙れ!」藤原時央は一喝した。