第377章:痴漢のような顔

「結構です。」藤原時央は断り、視線は15階の方向を見つめたままだった。

江川楓はそのまま地面にしゃがみ込んだ。

藤原若旦那が一体何をしたのか、若奥様に対するあの態度はあまりにも卑屈だった。

……

時田浅子は少し食べ物を口にし、また少し眠ったので、精神状態も回復し、荷物の整理を始めた。

彼女は今日持ち帰ったものの大半が時央のお母さんが買ってくれたものだと知っていた。

この恩義を、どうやって返せばいいのだろう?

荷物を整理し終えると、時田浅子はバルコニーに出た。夜も更け、少し涼しくなり、そよ風が吹いてきて、とても心地よく感じた。

彼女は頭を上げ、遠くの夜景を眺めた。

藤原時央はバルコニーに現れたシルエットを見た瞬間、目が輝いた。

こんなに長く待って、ようやくこの瞬間を見ることができた。

時田浅子は景色を眺めていたが、彼女自身が藤原時央の目には最も美しい風景となっていることに気づいていなかった。

江川楓は顔を上げ、藤原時央の表情を見て、すぐに彼の視線の先を追い、バルコニーに立つシルエットを見つけた。

なるほど、藤原若旦那は若奥様を見つけたのか、だからあんな夢中な顔をしているわけだ。

……

斉藤若春は常に時田浅子と柳裕亮、そして藤原時央の行動を注視していた。

何となく、時田浅子と藤原時央の間に何か問題が生じているように感じていた。

以前なら、藤原時央は彼女に打ち明けていたのに、今回は彼女を頼らなかった。

これは彼女にとって非常に危険な兆候だった。

藤原時央は徐々に彼女を必要としなくなっていた。

彼女には藤原時央を元に戻す方法がなく、時田浅子に手を出すしかなかった。

何度か手を打っても、藤原時央と時田浅子を完全に引き離すことができず、むしろ藤原時央の時田浅子への感情はますます深まっていった。

彼女は側にいる助手に尋ねた。「柳裕亮のドキュメンタリーはあとどのくらいで撮影が終わるの?」

「あと3日です、斉藤社長。撮影クルーから聞いた話では、柳裕亮は撮影終了後の打ち上げパーティーで時田浅子に告白するつもりだそうです。」

「その情報は確かなの?」

「確かです。」

「少し見張っておいて、この件の進展をすべて知りたいわ。」