斉藤若春は言葉に詰まって何も言えなかった。
「斉藤さんはわざわざ私を探しに来る必要はありません。藤原時央の心と人を掴むことこそが最も重要なのですから。斉藤さんが早く藤原奥様になって、藤原時央と白髪になるまで添い遂げられることをお祈りします」
時田浅子はそう言うと、身を翻して立ち去った。
斉藤若春は怒りで顔色が青白くなり、密かに両手を握りしめた!
彼女には理解できなかった。藤原時央は一体時田浅子のどこが好きなのか?自分のどこが時田浅子より劣っているというのか!
時田浅子が病室に戻ると、時田秋染はすぐに時田浅子の方へ歩み寄った。
「浅子、さっきの斉藤さんって誰?」彼女は時田浅子とあの女性の間の雰囲気があまり良くないことを感じ取っていた。
「私と彼女はあまり親しくないの、お母さん。彼女のことはもう話さないで。先に退院手続きを済ませてくるわ。今日にでも帰れるから」
「うん!」時田秋染は嬉しそうに頷いた。
時田浅子は退院手続きを済ませ、老爺と藤原奥様にそれぞれ電話をして状況を説明した。
彼女が東さんに病院へ迎えに来るよう頼んだと聞いて、老爺と藤原奥様は特に何も言わなかった。ただ、お母さんをよく世話するように、自分自身も気をつけるようにといくつか言葉をかけただけだった。
老爺は携帯電話を持ちながら、何度もため息をついた。
「はぁ、どうして藤原時央のような孫がいるんだ。最初から彼があれこれやらかさなければ、嫁を失うことなんてなかったのに」
安藤さんは返事をする勇気がなかった。何を言っても火に油を注ぐようなものだと思ったからだ。
「白沢陸を見てみろ。あの子はいかに自分の心を操り、自分の結婚問題に積極的に取り組んでいることか!」
「老爺、江川楓から聞いたところによると、藤原若旦那はここ数日若奥様と一緒にいなかったそうです。今日若奥様のお母さんが退院されるのも、藤原若旦那はまだ知らないかもしれませんよ!」安藤さんは思わず注意を促した。
老爺はすぐに藤原時央に電話をかけた。
「今日、時田浅子のお母さんが退院するのを知っているか?」
「今日?」藤原時央の声が電話から聞こえた。
「やはり知らないのか。浅子はもう手続きを済ませて、お母さんを連れて帰ったぞ!」老爺は恨鉄不成鋼(鉄が鋼にならないのを恨む)といった口調だった。