斉藤若春はゴルフウェアを着て、従業員の案内に従って上がってきた。
一目で時田浅子と藤原時央の姿が目に入った。
この時、時田浅子はまだ藤原時央に食べ物を差し出す姿勢を保っており、二人の様子はとても親密に見えた。
斉藤若春が上がってくると、もう一人の人影が時田浅子の視界に入った。
宮本凪だ。
宮本凪も時田浅子と藤原時央を見て、この光景に思わず両手を強く握りしめた。
「時央、なんて偶然だね、今日もゴルフに来たの?」斉藤若春はすぐに親しげに近づいてきた。
時田浅子は手を下ろし、目の前のコーヒーを見つめた。
「斉藤社長も今日は暇なようですね」藤原時央は冷たく返事をし、テーブルの上のマカロンを片付けながら時田浅子に言った。「浅子、行こうか」
斉藤若春の表情が少し硬くなった。
「時田浅子、あなたのお母さんの容態が安定したって聞いたわ。この薬はやはり良い効果があったみたいね。この知らせを聞いて、私もようやく安心したわ」斉藤若春は話題を時田浅子に向けた。
「はい、斉藤さんが私の母の状態を気にかけてくれて、ありがとうございます」時田浅子は立ち上がり、淡々と応じた。
「時田浅子、私たちの間に誤解があるとは思いたくないわ。あなたの役に立てて、私も嬉しく思っているの」
時田浅子は斉藤若春の厚かましさに言葉を失った。
「それなら、宮本さんの功績が最も大きいということですね。私の浅子に代わって宮本さんにお礼を申し上げます。今後、宮本さんの研究プロジェクトに資金が必要な時は、いつでも私に連絡してください」藤原時央は約束した。
斉藤若春の表情が変わった。
宮本凪は藤原時央に返事をせず、ずっと時田浅子を見つめていた。
時田浅子の手は藤原時央に握られており、二人はとても親密で自然な様子だった。彼の心は鋭い痛みを感じた。
なぜ彼が彼女を抱きしめると、彼女はあんなに強い反応を示すのだろう?
あの反応は彼に対してだけなのだろうか?
「浅子、今朝電話したんだけど、ずっと出なかった。ここで会えて良かった、少し話せないかな?」宮本凪から声をかけた。
時田浅子はすぐに藤原時央を見た。
今朝、彼女は携帯を確認したが、宮本凪からの着信は表示されていなかった。
もしかして藤原時央が通話履歴を消したのだろうか?