「ここのデザートはなかなか良いわよ。前に食べたことがあるから、いくつか試してみたら?」斉藤若春は見栄を張って数個選んだ。
「これらは甘すぎず、食感も良いわ。特にこのムースケーキは、口に入れるとすぐ溶けるの」
「浅子もこういうのが好きだと思う」宮本凪は二つ注文した。
「時央は甘いものが大嫌いなのよ。彼は食べ物にとても厳しくて、体に必要な栄養を薬で補うほどなの」斉藤若春はさも何気なく口にした。
宮本凪の視線はメニューから斉藤若春の顔に移った。
斉藤若春は少し居心地悪そうに、体を後ろにずらし、テーブルの上のグラスを取って一口水を飲んだ。
「斉藤社長、あなたと藤原時央は以前いったいどういう関係だったのか教えてくれませんか?あなたたちの間には、単にあなたが彼に恋心を抱いていて、彼があなたに無関心だったという片思い以上のものがあるように感じるんです」宮本凪はメニューを置き、真剣な表情で斉藤若春を見つめた。
彼は斉藤若春が何か隠していることがあるように感じていた。
そして、それらのことは時田浅子と藤原時央に関係していた。
「あの沈没事故がなければ、時央があんなに長く昏睡状態にならなければ、今のような状況にはなっていなかったでしょうね」斉藤若春は言い終えると、ため息をついた。まるで胸に秘めた思いを打ち明ける場所がないかのように。
彼女のこの表情に、宮本凪は自分の推測が根拠のないものではないと確信した。
藤原時央が目覚めて帝都に戻ってきた時、公の場に初めて姿を現したのは斉藤若春と一緒だった。
さらに、斉藤若春の携帯電話には藤原時央のプライベート写真がたくさんあり、二人の写真まであった。それらの写真は親密な恋人同士でなければ撮らないようなものだった。
このことから彼はさらに、斉藤若春と藤原時央が実際にはしばらくの間交際していたのではないかと疑っていた。
藤原時央は昏睡状態になる前、時田浅子とは全く知り合いではなかった。
時田浅子が藤原時央と結婚してまもなく、藤原時央は目を覚ました。
藤原時央がどうして長年知り合いだった斉藤若春を捨てて、時田浅子と一緒になるだろうか?藤原時央が時田浅子と一緒にいる理由は、何か目的を持っているように思えた。
「斉藤社長、浅子をあきらめるなと言ったのは、何か隠していることがあるからですか?」