二人の間には言葉にできない微妙な雰囲気が漂っていた。
時田浅子は自分の顔が熱くなり、耳は血が滴り落ちるほど赤くなっていると感じた。
「藤原時央、ここは外よ!」時田浅子は二人だけに聞こえる声で叱った。
藤原時央は収まるどころか、さらに彼女に近づき、唇が彼女の耳に触れた。
磁性のある声と熱い息が、同時に彼女の耳の奥深くまで入り込んだ。
「外だからどうしたの?」
時田浅子は彼の腰をぎゅっと掴んだ。彼女は力を入れたが、藤原時央はびくともしなかった。
二人の行動は斉藤若春と宮本凪から見ると、まるで甘い恋愛中のカップルが耳元で戯れているようだった。
斉藤若春は怒りで手にしたグラスを握りしめ、彼女の震えでグラスの中の水がガラスの壁に当たって揺れていた。
宮本凪に至っては、視線を別の方向に向けた。
彼の愛する女性が他の男の腕の中にいることは、彼には耐えられない痛みだった。
しかし、彼には彼女を取り戻す資格がなかった。
彼はこれまで時田浅子がこんなに恥じらう姿を見たことがなかった。
時田浅子は適当に二品を注文した。「これを追加で」注文を終えると、メニューを藤原時央の顔に突きつけた。「あなたも見る?」
「いいよ、君が選んだものでいい」藤原時央はメニューをテーブルに置いた。
ウェイターはすぐにそれを回収し、同時に別のウェイターがお湯を持ってきた。
斉藤若春が手を伸ばそうとしたとき、藤原時央が先に急須を取り、時田浅子のカップにお湯を注いだ。
「まずはお湯を飲んで胃を温めて」
時田浅子は本当に喉が渇いていたので、カップを持ち上げて飲んだ。
「君は体が弱いから、水をたくさん飲むといい。母さんは孫を抱きたがっているんだ」藤原時央がさらに言った。
「ぷっ!」時田浅子は思わず、水を全部吹き出してしまった。
何の孫?藤原時央は本当に口から出まかせだ!
ほぼ同じ椅子に座っていた藤原時央は避けられず、水を全身に浴びてしまった。
時田浅子は彼の髪に付いた水滴を見て、彼を睨みつけた。
ざまあみろ!誰のせいで変なことを言ったのか。
「時央、見て、顔中水だわ、早く拭いて」斉藤若春はティッシュを取り立ち上がった。
藤原時央はティッシュボックスを直接時田浅子の前に置いた。「妻にやってもらうよ」
斉藤若春はそこに立ったまま気まずくなり、手のティッシュを丸めた。