林聡明が去った後、リビングには静寂が訪れた。
時田浅子はゆっくりと時田秋染の前に歩み寄り、しゃがんで彼女の手を握った。
「お母さん、彼のことで気分を悪くしないで」
時田秋染は手を上げて時田浅子の手を握り返した。「安心して、彼はもう私の気持ちに影響を与えることはできないわ。そんな人のために、価値はないもの」
「ご飯ができましたよ、みなさん先に食べましょう」大木嵐が立ち上がって声をかけた。
「そうそう、食事だ!まずは食事、今日は団らんの食事だ、みんな少し明るくなろう」おじいさんも立ち上がった。
時田浅子は時田秋染を支えながらダイニングへ向かった。
席に着くと、団団はすぐに鶏肉の皿に目をつけ、鶏の足を一本取って時田秋染の茶碗に入れた。
「おばあちゃん、大きな鶏の足を食べて!とても美味しいよ!」
時田秋染は思いがけない贈り物に感激した。「ありがとう、団団、いい子ね」
「どういたしまして」団団は礼儀正しく答えた。
時田浅子はもう一本の鶏の足を団団の前に置いた。「これは団団のよ」
「ありがとう、お姉ちゃん!」団団は嬉しそうに感謝した。
団団というムードメーカーがいることで、雰囲気はすぐに変わり、笑い声が絶えなかった。
食事の後、時田浅子は時田秋染を部屋まで送って休ませた。
「お母さん、どうして当時のことを私に話してくれなかったの?私はてっきり、お母さんが林聡明と斉藤愛梨を嫌って、彼らとの関わりを一切持ちたくないと思っていた」
「浅子、もしあなたがいなかったら、お母さんは本当に林聡明と財産を争うような真似はしなかったわ。でもあなたが生まれてからは、お母さんはあなたを養うためにお金が必要だった。あなたにいい生活をさせたかった、苦労させたくなかった。意地を張って何になるの?私はずっと、あなたが誘拐された事件は林聡明と斉藤愛梨の共謀だと思っていたけど、今日の林聡明の反応を見ると、おそらくこれは斉藤愛梨一人の考えだったのかもしれないわ」
「お母さん!」時田浅子の涙はコントロールできずに溢れ出した。彼女は立ち上がって母親をきつく抱きしめた。
彼女は林聡明か斉藤愛梨のどちらが首謀者かなど気にしていなかった。ただ、当時の母親がどれほど追い詰められていたかを思うと胸が痛んだ!