第651章:直接見た方が手っ取り早い

一家全員がテレビを見ていたが、藤原時央の視線だけが時々時田浅子に向けられていた。

時田浅子は彼の視線に耐えられなくなり、ついに我慢できずに振り向いて彼を見た。

「そんなにじっと見ないで」彼女は小さな声で命令した。

「君を見なかったら、何を見ればいいんだ?」藤原時央は小声で返した。

「テレビを見ればいいでしょ!」

「テレビを見るのも君を見るためだよ。今君はすぐ隣にいるんだから、直接見た方が手っ取り早いじゃないか?」

時田浅子は口を開いたが、返す言葉が見つからなかった!

藤原時央は彼女の困った様子を見て、顔中に笑みを浮かべた。

「もうテレビを見ていいわよ。私の出番がもうすぐだから、次は私だから」

藤原時央はようやく視線をテレビに向けた。

司会者の声が次の出場者を告げた。

場内は静まり返り、皆が期待して待っていた。

まずギターの音が流れ、続いて時田浅子の澄んだ歌声が聞こえてきた。

時田秋染はすぐにこの曲が浅子が高校時代に自作した曲だと気づいた。彼女は学校の交流会で一度聴いたことがあった。

「お姉ちゃんの歌、すごく綺麗!」団団は思わず言った。

藤原時央は手を上げて団団の頭を軽く叩いた。「おしゃべりするな」

団団は頭を押さえ、少し不満そうだったが、それでも口を閉じ、テレビから流れる歌声を静かに聴いていた。

時田浅子の歌が終わると、団団は熱心に拍手した。

「団団はもうすぐテレビでお姉ちゃんを見られるよ!」

団団の言葉が終わるか終わらないかのうちに、司会者がCMに入ると言い、団団はすっかり怒ってしまった。

「浅子が歌ったこの曲、何ていう曲名?」大木嵐は静かに尋ねた。

彼女も以前は音楽を聴くのが好きだったが、最近はあまり聴かなくなっていた。彼女が好きだった歌手たちは、長い間新しい作品を出していない人もいた。

今の若者が歌うものは、彼女には全く受け入れられなかった。

時田浅子が歌ったこの曲は、まさに彼女の好みのスタイルだった。

彼女はこれがどこかのマイナーな歌手の作品なのかと思っていた。

「この曲は浅子が高校時代に自分で作ったものです」時田秋染が時田浅子の代わりに答えた。

時田浅子のオリジナル曲だと聞いて、部屋中の人々が驚いた。

藤原時央も、この曲が時田浅子の作曲だとは思っていなかった!