第672章:彼は言った、愛してる

彼女は自分がなぜこんなに泣き虫になったのか分からなかった。

以前は、こんなことを気にしなかったのに。

思い出しても、感情が揺れ動くことはなかったはずなのに。

でも、藤原時央の前では、彼女は脆くなってしまったようだった。

特に、自分が藤原時央を好きだと気づいてからは、自分の変化をはっきりと感じることができた。

自分でも見知らぬ自分になってしまったような気がした。

感傷的!時田浅子は心の中で自分を叱った。

それでも、彼女は顔を上げて、このケーキを見つめた。

「ただ子供の頃のことを思い出しただけよ」

「それで?」藤原時央は続きを聞きたがった。

「実は、私はそんなにケーキが好きというわけじゃないの。ただ毎年、誕生日ケーキに少し期待していただけ。私が小さい頃、誕生日はいつもお母さんとおじいちゃんと一緒に過ごしていたわ。林聡明は一度も私の誕生日を一緒に過ごしてくれなかった」

「あの頃、私は本当に彼が誕生日を一緒に過ごしてくれることを期待していたの。たった一度でもいいから。お母さんは彼が忙しいからだと慰めてくれた。ある年の誕生日、私は前もって彼に言ったの。帰ってきて一緒に過ごしてほしいって。彼は難色を示したわ。まるで娘の誕生日を一緒に過ごすことが、とても難しい決断であるかのように」

「私は知らなかった。あの時、彼はすでに外に家庭を持っていたこと。斉藤愛梨がいて、林清子がいたこと。林清子は暗がりに潜む鼠のように、少しずつ私のすべてを盗んでいったの!後になって分かったけど、彼が私の誕生日に帰ってこなかったのは、林清子と一緒にいたからだったのよ」

藤原時央は時田浅子を抱きしめながら、彼女の話に耳を傾けた。

どんな子供も親の愛情を求めているものだ。彼は父親が早くに亡くなったが、浅子には父親がいるのに、父親に深く傷つけられていたのだ!

彼女もかつては、父親が自分と一緒にいて、自分を愛してくれることを心から期待していたのだ。

しかし最後に待っていたのは、そのような結果だった。