バイクは川沿いの景観デッキに停められ、時田浅子は藤原時央を連れてデッキを降りた。
川岸は起伏に富み、木製のデッキは独特の風情を醸し出していた。
空はすでに暗くなり、川の両側の灯りが灯り始め、この小さな町に言葉では表せない美しい景色を添えていた。
藤原時央は灯りに照らされた時田浅子を見つめ、ふと、この瞬間が彼の入念に計画した旅程よりも素晴らしいと感じた。
彼はこの夏休みに時田浅子を連れて遊びに行きたいと思っていた。場所を選ぶだけでも何日もかかった。
世界中の名だたる場所から選りすぐっても、最終的な目的地を決めることができなかった。
しかし、この小さな町は彼が求めていた温かさを与えてくれた。
実際、重要なのはどこに行くかではなく、誰と一緒にいるかだった。
時田浅子は静かに川辺に立ち、遠くの景色を眺めていた。
灯りが遠くの通りを照らし、彼女は母親が自転車に乗せて連れて行ってくれた姿が見えるような気がした。
ここは彼女がかつて嫌い、逃げ出したいと思った場所だったが、最終的には懐かしむ場所になっていた。
再びここに戻ってきて、彼女の心には意外にも少しの名残惜しさが湧き上がっていた。
藤原時央は時田浅子の隣に来て、彼女と視線を合わせながら手すりに半分寄りかかった。
時田浅子は彼を一瞥した。
その目には夕風さえも及ばない優しさが宿っていた。
藤原時央の心は川の水のように波打った。
そのとき、一組のカップルが彼らの横を通り過ぎた。
二人は手を繋ぎ、指を絡ませていた。
藤原時央はそれを見て、時田浅子の手を握り、指を彼女の指の間に滑り込ませて、しっかりと手のひらを握りしめた。
時田浅子は二人の握り合った手を見下ろした。
「浅子、これが僕たちの初デートになるのかな?」
時田浅子は一瞬戸惑った。
「人生の軌跡は、出会い、恋愛、理解、そして共に歩むこと。僕たちはどれも欠かさないようにしよう、いいかな?」
時田浅子は顔を上げて彼を見つめた。
灯りと月明かりが彼の瞳に映り込み、心動かされる輝きを織りなしていた。その輝きに包まれているのは彼女の姿だけだった。
「僕たちはもう出会った。だから、今はちゃんと恋をするべきだね。」
時田浅子は自分の鼓動がはっきりと聞こえた。
藤原時央の心を動かす視線の中で、彼女はゆっくりとうなずいた。