オークション会場

「兄さん、何を言ってるの？彼女は確かに…」昭子は信じられないという表情で航を見つめ、驚いて言った。

「ここにいたくないなら帰れ！」航は冷たく昭子を一瞥し、それきり何も言わずに、遠くにいる香織に目を向け、眉をひそめた。

実際に目にしなければ、香織がこんな姿になるとは信じられなかっただろう。

昭子は不満そうに口をとがらせ、オークションカタログを手に取った。傷ついた心を慰めるために、いくつかの商品を落札する決意を固めた。

オークションはすぐに始まった。

香織は最初の三つの商品には興味がなく、今日オークション会場に来たのは、四番目の展示品であるサファイアを落札するためだった。

「このサファイアは約二百グラムあり、内側が青く、外側が緑で、透明度が高く、収集価値の高いものです」司会者はこのサファイアの詳細を説明し、笑顔で言った。「サファイアの開始価格は一億円、最低入札単位は二十万円です。それでは、オークションを開始します！」

「一億二千万円」

航と香織が同時にパドルを上げ、声を上げた。

二人はお互いの声を聞いて、視線を交わした。

「藤原社長はいつも通り紳士的じゃないわね。あ、違った、泣き虫の女性にだけは紳士的なのよね。このサファイアを私に譲っていただけないかしら？」香織は冷淡に座ったまま、眉を上げて笑いながら言った。

航の隣に座っていた昭子は、香織の皮肉な言葉を聞いて冷笑した。彼女の兄は人前で香織と口論するようなことはしないだろうが、彼女は違う。彼女は厚かましいことで知られていた。

「香織、あなたみたいな成り上がりが買えるわけないでしょう？」昭子は香織と初めて会った時のことを思い出した。普通のブランドさえ買えない女が、こんなオークションに来られるはずがない。

「一億四千万円」香織は昭子との会話に興味を示さず、パドルを上げて値段を上げた。彼女はこのサファイアが気に入っていて、ネックレスにして身につけたいと思っていた。

「一億六千万円。香織の口座を確認することを提案します。彼女の口座にはこんなに多額の金額はないはずです！」昭子は高慢にパドルを上げ、誇らしげに大声で宣言した。

オークションにはルールがあり、事前に各入場者の資産を確認することになっていた。

「藤原さん、島田さんは私どもの佳航オークションのブラックダイヤモンドカードをお持ちです」壇上の司会者は昭子の言葉を聞いて、礼儀正しい笑顔を浮かべながら言った。

ブラックダイヤモンドカード？

昭子は一瞬呆然とした。安川市全体でもブラックダイヤモンドカードはたった三枚しかなく、しかも譲渡不可能なのに。彼女でさえ持っていないのに、香織が持っているなんて？

なぜ？

香織がブラックダイヤモンドカードを持っているのに、彼女が持っていないなんて？

昭子は激怒しながら携帯を持って外に出た。父親に頼んでブラックダイヤモンドカードを作ってもらわなければならない！

「二億円」香織は冷静に司会者を見据え、パドルを上げた。

今回、航は賢明にも香織と争わなかった。それどころか、その後のオークション品も、香織がパドルを上げたものには一切手を出さなかった。

昭子が電話を終えて戻ってきた頃には、オークションはすでに終盤を迎えていた。

「兄さん、何を落札したの？」昭子は期待に満ちた眼差しで航を見つめ、彼女は以前、いくつかのアクセサリーを落札してほしいと頼んでいた。

「何も」航は無表情に答えた。昭子が目をつけていた物は、全て香織が買ってしまい、争うわけにもいかなかった。

「兄さん、約束してくれたのに…」昭子は信じられないという表情で航を見つめ、息を呑んで驚いて言った。

「後で他のものを買ってあげる」航は適当にごまかした。遠くに座る香織を横目で見ながら、心の中で不思議に思った。

「そう、わかった」昭子は落胆しながら言った。どうせお父さんがブラックダイヤモンドカードを作ってくれることを約束してくれたし、これからは安川市で顔が立つ人間になれる。「そうそう、おじいさんが香織を家に連れて帰るように言ってたわ！」

昭子は先ほどの電話で、香織に殴られた件を誇張して話し、涙ながらに訴えた。

藤原家の人々は元々香織を好ましく思っていなかった。藤原のお父さんは、香織が昭子をいじめたと聞いて当然のように激怒したが、いつもの偽善的な態度で、電話を藤原おじいさんに回した。

藤原おじいさんは常に藤原家の体面を最も重んじていた。以前、香織が偽造された動画を流して藤原家の面目を失わせたことの清算もまだついていないのに、今度は愛する孫娘を殴ったとなれば、どうして我慢できるだろうか？

昭子の言葉が終わるか終わらないかのうちに、航の携帯に藤原おじいさんからメッセージが届いた。

「香織を祠堂に連れて来い！」

航は眉をひそめ、表情を曇らせた。返信しようとしたそのとき、昭子がすでに立ち上がって香織の行く手を遮っているのが見えた。

「香織、おじいさんが家に帰って祠堂で跪けって言ってるわ！」昭子は大声で叫んだ。その澄んだ声はオークション会場全体に響き渡った。

ちょうどオークションが終わって、多くの人々が帰ろうとしていたそのとき、昭子の声を聞いて立ち止まり、騒ぎを見物し始めた。