029 彼はダメなの?

島田香織は足を止め、一瞬戸惑いながら言った。「申し訳ありません。部屋を間違えてしまいました!」

そう言いながら、島田香織は振り返ってドアの方へ向かった。

「待て!」

バルコニーの方から男の冷たい声が聞こえた。

島田香織が振り返ると、藤原航がバルコニーから部屋に入ってくるところだった。

部屋の明るい灯りが藤原航の黒い瞳に映り、彼は島田香織のドレスをじっと見つめていた。

「島田香織、お前は少しも成長していないな。三年前も、こうして俺のベッドに潜り込んだんだろう?」

藤原航は体の中の怒りを必死に抑えていた。誰が薬を盛ったのか考えていたが、もう考える必要もない。犯人はここに立っているのだから。

島田香織は眉をひそめ、先ほど彼女をここに案内したホテルマンの怪しげな様子を思い出した。今となっては全て明らかだった。誰かが意図的に彼女をこの部屋に誘導したのだ。

島田香織は考えるのを止め、すぐに部屋を出ようとドアノブに手をかけた。

不思議なことに、ドアノブが全く動かない。諦めて振り返ると、藤原航の怒りに満ちた目と向かい合ってしまった。

陣内美念に電話をしようと思ったが、上がる前に携帯を陣内美念に預けていたことを思い出した。

「携帯持ってる?」島田香織は嫌そうな顔で藤原航を見上げて尋ねた。

「ない」藤原航は強い自制心で島田香織に飛びかかるのを抑え、首を激しく振って言った。「バルコニーから誰かを呼んでくれ」

島田香織は呆れた様子で藤原航を見て言った。「みんなに私たちが同じ部屋にいるって知られたいの?」

藤原航:……

島田香織は藤原航を鋭く睨みつけ、口を開いた。「あなたとは関わりたくないの。元カレは死んだも同然って言うでしょ。なのにあなたはどうしてしょっちゅう現れるの」

藤原航:……

島田香織は藤原航の整った顔が真っ赤になっているのを見て、彼の手に目を向けた。何かを必死に我慢しているようで、両手を強く握りしめ、手の甲の血管が浮き出ていた。

「誰があなたをこの部屋に連れてきたの?」島田香織は興味深そうに藤原航を見て尋ねた。

「ホテルマンに案内されてきた」藤原航は立ち上がってバスルームへ向かい、もう島田香織との会話を避けた。