066 男主を変える?

渡辺能野は藤原おじいさんに派遣されてきた人物で、藤原航が間違っていなければ、渡辺能野の電話も彼を試すためのものだった。

「そうですね」と渡辺能野は考え深げに言いながら、ビデオ通話の外で別の携帯電話を使って藤原おじいさんにメッセージを素早く送った。そのメッセージには藤原航と島田香織がレッドカーペットを歩いた理由が説明されていた。そして何気なく尋ねた。「以前、昭子から聞いたんですが、おじいさんは林杏とレッドカーペットを歩かせたかったんですよね?」

渡辺能野は藤原航が黙り込み、顔の笑みが徐々に凍りついていくのを見て、真剣な表情で尋ねた。「なぜ彼女を連れて行かなかったんですか?林杏と一緒なら、藤原家の話題性は間違いなく高まったはずですよ。」

「運転中なので、切らせてもらいます」と藤原航は言って、躊躇なく電話を切った。

彼はアクセルを踏み、車は街路を疾走した。停車したとき、気づけば島田香織のマンションの前に来ていた。

藤原航は駐車場に車を停め、なぜここに来たのかも分からないまま、島田香織の建物の方へ歩き出した。

彼は島田香織の部屋の窓がどれか覚えていた。その窓にまだ明かりが付いているのを見て、携帯電話を取り出して彼女に電話をかけようとした矢先、その窓の明かりが消えた。

藤原航は胸の中がぽっかりと空いたような感覚を覚え、駐車場へ向かって歩き出し、車を走らせて去っていった。

帰り道、どうして島田香織のマンションまで来てしまったのか、ずっと考えていた。

結婚した時から、藤原航は島田香織が自分のことを好きだということを知っていた。

彼は島田香織との離婚など考えたこともなかった。なぜなら、彼女には行き場がないことを知っていたから。もし離婚すれば、彼女はおそらく…

藤原航はハンドルを強く握りしめた。藤原家では、様々な政略結婚を見てきた。それらの結婚は表面的なものに過ぎず、それ以外は各々が好き勝手に生きていた。

彼は島田香織を愛してはいなかったが、浮気をしたことは一度もなかった。

もし島田香織が離婚を切り出さなければ、おそらく一生彼女と過ごしていただろうと思った。

しかし、今でも理解できない。なぜ島田香織は離婚を望んだのか。

彼女が「離婚」という言葉を口にした時から、彼を見る目から輝きが消えていた。