065 私利を公にまぎらわす

なんと島田香織だった!

藤原航と元妻の島田香織のゴシップは常にメディアの注目の的だった。二人の結婚期間中、藤原航は島田香織を一度も公の場に連れ出さなかったことは周知の事実だった。

二人がレッドカーペットを歩く中、周りのレポーターたちは絶え間なく写真を撮り続けた。現在公開中の『スターロード』の高い興行収入も相まって、島田香織は会場で最も注目を集める女優となっていた。

島田香織は藤原航の腕に手を添え、周りのレポーターたちに礼儀正しく挨拶をした。ふと、以前藤原航のファンから生卵を投げつけられた光景が脳裏をよぎった。

レッドカーペットを歩き終えると、藤原航は島田香織を席に案内した。

島田香織は無表情で座っていた。実は彼女はここに来たくなかった。『スターロード』をもっとヒットさせるためでなければ、今夜は陸田健児と一緒にレッドカーペットを歩いていたはずだった。

島田香織は8時になろうとしているのを見て、藤原航の方を向き、小声で言った。「帰りたい」

彼女は年越しイベントにまったく興味がなく、家で鍋を楽しみたかっただけだった。

藤原航は複雑な表情で島田香織を見つめ、軽くうなずいた。

島田香織は裏口から出ると、冬が彼女の車で待っていた。

冬が島田香織を家まで送り届けて去ると、島田香織がドアを開けた途端、鍋の香りが漂ってきた。

「いい匂い!」島田香織はダウンコートを脱ぎ、中のイブニングドレス姿のまま、リビングで忙しそうにしている陣内美念に向かって言った。「ちょっと待って、着替えてくるわ!」

「急がなくていいよ、まだ沸いてないから!」陣内美念は鍋をかき混ぜながら、島田香織に向かって声をかけた。

島田香織はパジャマに着替えると、急いで出てきて、鍋を見ながら床に座り込み、興奮した様子で言った。「やっぱり家が一番落ち着くわ。もうレッドカーペット歩きたくない」

島田香織の言葉を聞いて、陣内美念は思わず笑った。「それは無理でしょう。あなたは女優なんだから、露出は必要よ」

島田香織は苦笑いを浮かべた。

深夜12時、年越しの鐘が鳴り響き、夜空に華やかな花火が打ち上がった。島田香織は床から天井までの窓の前に立ち、花火を見ながら静かに願い事をした。

新年はもっとたくさんお金を稼げますように。

12時を過ぎ、陣内美念が寝に行き、家には島田香織一人だけが残された。