人が多いからこそ賑やかなんだ!
陸田健児一人だけでは、芸能記者たちもスクープを撮れないだろう。
藤原航は記者たちに囲まれている陸田健児を見つめ、静かに視線を外して言った。「面白い展開はなさそうだな。どこかで食事でもしよう」
「お腹すいてないよ」渡辺能野は知り合いの芸能記者にメッセージを送り、顔を上げて藤原航を見た。「島田香織がどう言うか気にならない?」
「彼女の態度は明らかだろう。何を気にすることがある?」藤原航は冷たく言い、渡辺能野がスマホを見つめているのを見て、「今夜まだ会議があるんだ。君はここで待っていてくれ。私は先に戻るよ」
渡辺能野が何か言おうとした時、スマホが突然振動し、芸能記者の芳からメッセージが届いた。
「島田香織は見当たりません」
渡辺能野は島田香織が先に車から降りたことを確信していたが、彼女がどうやって誰にも気付かれずにホテルに入ったのか理解できなかった。
渡辺能野は藤原航の機嫌が悪くなったのを見て、今日はもう機会がないと思い、仕方なく藤原航を車で送り届けた。
藤原航が藤原家に入ってから、渡辺能野は携帯を取り出して藤原おじいさんに電話をかけた。
「藤原おじいさま」渡辺能野は電話が繋がるとそう呼びかけた。
藤原おじいさんは淡々と「うん」と返事をし、冷たく尋ねた。「何か分かったのか?」
「今日は作戦を誤りました。藤原航の島田香織への感情を探れませんでしたが、新しいテスト方法を考えました」渡辺能野は藤原おじいさんが怒るのを恐れ、急いで付け加えた。「本当です、藤原おじいさま。最後のチャンスをください!」
「うん」
渡辺能野が何か言う前に、電話は切れてしまった。彼は車の中で深いため息をつき、疲れた様子で椅子に寄りかかった。
ホテルの入り口で。
陸田健児は芸能記者たちに1時間半も囲まれ、最後にマネージャーとチームの助けを借りてようやくホテルに入ることができた。エレベーターに乗るなり、彼は急いでマスクを外した。
マネージャーは陸田健児を見上げ、思わず言った。「あなたと島田お嬢様のことですが、交際を公表しませんか?」
「私たちは付き合っていない」陸田健児は目を伏せ、顔に寂しげな表情が浮かんだ。「会社の人には余計な情報を流さないでくれ」
マネージャーも何も言えず、ただ頷くしかなかった。