「今度は私がおごるわ」と島田香織は笑いながら言った。今日は少し疲れていた。
陸田健児は承諾し、島田香織の家の住所を聞いて、ナビを設定し直した。
島田香織の家の前に着いた時、陸田健児は車を路肩に停め、ハンドルから手を離すと、手のひらに緊張で汗をかき、島田香織から目を離さずに言った。「じゃあ、連絡待ってます」
島田香織は笑顔で手を振り、車を降りてアパートの中へと歩いていった。
もう遅い時間で、エレベーターの中には誰もいなかった。彼女はエレベーターの中に立ち、今日起こったすべてを思い返すと、思わず口角が上がった。
「ピン」
エレベーターのドアが開き、島田香織が我に返って出ようとした時、エレベーターの前に立っている藤原航の姿が目に入った。
島田香織はハイヒールを履いたままエレベーターから出て、藤原航を完全に無視して家に帰ろうとしたが、前の道は人影に遮られた。