111 彼女はもう彼を待たない

藤原航は個室で鈴木社長と鳳陽レジデンスの建設契約を締結し、契約締結後、残りの仕事を全て林楠見に任せ、自分一人で先に出てきた。

九田島の日本料理店はプライバシーが保たれており、個室の防音効果も良く、藤原航は静かな廊下を通って庭園へと向かった。

庭園には高価な花が多く、食事に来た人々の多くがこれらの花の写真を撮影するために訪れていた。

藤原航にはこの美しい景色を楽しむ余裕はなく、長廊の片隅に座り、藤原おじいさんの言葉を考え続けていた。

彼は藤原おじいさんが本当に自分と島田香織との結婚を望んでいるとは思えなかった。なぜ藤原おじいさんは自分と島田香織の再婚を勧めるのか、島田香織の会社のためなのか、それとも林桃子との結婚を阻止するためなのか?

昨日病院で、藤原航は林桃子に対して、絶対に彼女と結婚するつもりはないと明確に伝えていた。

この時、庭園には人があまりおらず、二人の女性従業員が個室の方から出てきて、庭園に人がいないのを確認すると、牡丹の花の前で立ち話を始めた。

「まあ、島田香織さんってほんと綺麗ね。テレビや映画で見るより実物の方が綺麗だわ。陸田スターが惚れるのも無理ないわ。私が男だったら、私も島田香織さんに惚れちゃうわ!」

「あなた、さっきは島田香織さんばかり見てたでしょう。私ね、こっそり陸田スターの方を見てたのよ。あなた知らないでしょうけど、彼が島田香織さんを見る目つきったら、まるで水のように優しくて、私なんかもう息が詰まりそうだったわ。間違いなく、陸田スターは島田香織さんのことが好きよ!」

「それって素敵じゃない。才色兼備で、お似合いのカップルね!」

「そうよね。私も島田香織さんが藤原家を出て行って良かったと思うわ。藤原家にいた頃は、しょっちゅう悪い噂が流れてたけど、今から考えると、きっと藤原家の人たちが島田香織さんを快く思っていなくて、わざと悪い噂を流してたんじゃないかしら!」

「そうそう、私もそう思うわ。島田香織さんが藤原社長と離婚したのも、藤原家の大奥様の林杏さんが騒ぎ立てたせいでしょう。林杏さんが自分で水に飛び込んで流産したのに、その濡れ衣を島田香織さんに着せたのよ。もし動画と音声で島田香織さんの潔白が証明されていなかったら、藤原家の跡取り息子の子供を殺したという罪まで着せられるところだったわ!」