112 あなたとだけ一緒にいたい

個室の中。

テーブルの上にはお粥と六品の薄味の小鉢が並べられていた。島田香織は向かいに座っている陸田健児を見上げ、彼の思いやりの深さに感心せずにはいられなかった。

陸田健児がこれほど思いやりがあるのは、生まれつきの性格か、それとも元カノに仕込まれたのか、どちらかだろう。

でもネット上には陸田健児の噂話は全然ないんだよね。

「陸田さん、失礼だけど聞いていい?元カノって誰?」島田香織は本当に気になっていた。一体どんな凄い人物がこんなに思いやりのある彼氏を育て上げたのか。

その言葉を聞いて、陸田健児の笑顔が一瞬止まり、涼しげな目に笑みを浮かべながら言った。「どうしてそんなことを聞くの?」

「気になって。」島田香織はお粥を一口すすり、その香りが口の中に広がった。彼女は陸田健児から目を離さずに言った。「大丈夫、誰にも言わないから。」

陸田健児は箸で小鉢の料理を取って島田香織の茶碗に入れ、口元に薄い笑みを浮かべながら尋ねた。「僕に興味を持ってくれたってことでいいのかな?」

「言いたくないなら、別にいいけど。」島田香織はより一層明るく笑った。後で誰かに調べてもらえばいい、彼の口から聞かなくても真相は分かるはずだ。

「僕は付き合ったことがないんだ。」陸田健児はそう言うと、淡々とお粥を飲み続け、島田香織から目を離さなかった。

島田香織は少し驚いて、薄い笑みを浮かべながら、心の中の驚きを抑えようとした。

陸田健児は今年二十八歳。島田香織から見れば、この年齢の男性で恋愛経験がない人は少ない。でも人気俳優として毎日忙しく稼いでいるから、恋愛する暇がなかったのかもしれない。

「僕は香織さんとだけ付き合いたいんだ。」陸田健児は島田香織を見つめ、その涼しげな目は愛情に満ちていた。

島田香織の心の奥が震えた。彼女は慌てて視線を逸らし、黙々とお粥を飲み続けた。

陸田健児の言葉があまりにも率直で、島田香織は地面に穴があったら入りたいくらいだった。彼女は陸田健児とどう会話を続ければいいのか分からなかった。

個室の中は静まり返っていた。島田香織がお粥を飲み終えるまで。

島田香織はティッシュを一枚取り出し、口元を拭いながら陸田健児を見上げて言った。「ごちそうさま。」