藤原昭子の顔色が急変した。おじいさんは人を待たせることが一番嫌いだった。
仕方なく、藤原昭子は急いで祠堂へ向かった。
今の彼女の唯一の希望は、母親が早く戻ってくることだった。
藤原家祠堂に着いて、藤原昭子が中に入ると同時に、茶碗が彼女の足元に投げつけられた。
「バシッ!」
茶碗の破片が床に散らばり、お茶が彼女のズボンを濡らした。
ぼんやりと藤原昭子は、島田香織が祠堂で正座させられた夜を思い出した。その時もおじいさんは島田香織の前に茶碗を投げつけた。
あの時は島田香織がもっと厳しく罰せられればいいと思っていた。
まさに因果応報、今度は自分の番だ!
そう思うと、藤原昭子の瞳に憎しみの色が浮かんだ。
島田香織さえいなければ、おじいさんに叱られることも、罰せられることもなかったはずだ!
「正座しろ!」藤原おじいさんが怒鳴った。
藤原昭子は驚いて足がすくんだ。正座しようとしたが、足元の茶碗の破片を見て、黙って横の清潔な場所に移動して正座した。
彼女は正座が怖かったので、予めズボンの膝の部分にナプキンを当てていた。
「おじいさま、私が悪かったです。もう許してください」藤原昭子は涙ながらに懇願し、顔を上げて藤原おじいさんを見つめた。
藤原おじいさんは藤原昭子の小細工を見抜いていた。彼は心の中でよく分かっていた。
藤原昭子は本当に自分の過ちを認識していない、ただ怖がっているだけだと。
その時、一台の黒い車が藤原家の門前に停まった。
藤原航は無表情で車から降り、ドアを閉め、真っすぐ別荘へ向かった。
門番は藤原航を見かけると、笑顔で近寄って来た。「二少様、あなた...」
「藤原昭子はどこだ?」藤原航は躊躇なく門番の言葉を遮り、無表情で尋ねた。
門番は藤原航が近づいてきた時、やっと彼の表情をはっきりと見て、不吉な予感がした。藤原航が怒り出すのを恐れ、急いで答えた。「三お嬢様は祠堂におられます!」
藤原航の漆黒の瞳が僅かに動き、唇を固く結んで、祠堂へ向かって歩き出した。
遠くの祠堂は明々と灯りが輝いていた。
藤原航は祠堂を見つめ、足取りが自然と遅くなった。
前回、彼は島田香織の説明を聞かずに、彼女を祠堂で罰を受けさせた。彼は島田香織がそんなことをするはずがないと分かっていたが、多くの場合、物事は表面だけでは判断できない。