「何か分かったのか?」藤原航は顔を曇らせ、膝の上に置いた両手を思わず握り締めた。
「いいえ、ずっと彼女を見張らせています」林楠見は震える声で言い、背中から知らず知らずのうちに冷や汗が出てきた。時折、バックミラーに目を向けていた。
林楠見はすでに調べ上げていた。この件は藤原昭子に関係していたが、彼は分かっていた。昭子にはそこまでの策略はなく、これら全てを仕組めたのは藤原おじいさんだけだった。
彼は心の中でよく分かっていた。もしこの件が発覚すれば、島田香織は二度と藤原航と一緒になることはないだろう。
だから、事実が判明した時点で、藤原航は彼に藤原昭子と岡田幸次の送金の件を隠蔽するよう指示したのだ。
しかし、世の中に完璧な秘密はない。もし島田香織の秘書が調べ上げたら……
それは恐ろしいことになる。
林楠見は考えるのも怖かった。
しかし島田香織の秘書はまだ調査を続けており、彼はプレッシャーに耐えきれず、藤原社長に報告せざるを得なかった。
藤原航は黙っていた。彼は島田香織が個室で一口食べただけで立ち去った様子を思い出していた。
島田香織は何か気付いているのだろうか?
そう考えた途端、藤原航の心臓が一拍抜け、息苦しくなり、手のひらも足の裏も冷たくなった。
しばらくして、藤原航は我に返り、運転席の林楠見を冷たく見つめて言った。「もし島田香織が真相を突き止めたら、お前は私の秘書を辞めることになる」
林楠見は体が極度に硬直した。「必ず島田お嬢様の秘書に調べられないようにします」
「ああ」藤原航は心の中ではまだ不安だったが、表情には出さなかった。
林楠見はバックミラー越しに藤原航を見て、少し安堵した。
その時、島田香織のオフィスでは。
奈奈さんが執務机の前に立ち、調査結果を報告していた。「島田お嬢様、この数日間ずっとあの件について調べていましたが、長時間調査しても、結果は以前と同じで、怪しい手がかりは見つかりませんでした」
島田香織は奈奈さんが調べ上げた書類を見ていたが、確かに何の不備も見つからなかった。眉をしかめ、自分が疑り深すぎる、神経質すぎるのかもしれないと思った。