345 失意

「お腹が空いているんじゃないの?」藤原航は目を上げて島田香織を見た。

二人とも黙ったまま、一人がスープを与え、もう一人がそれを飲む。病室は静まり返っていた。

陣内美念は病室の外に立ち、中の光景を見て、表情が暗くなった。

彼女は以前、島田香織と同じ部屋に住んでいた時、夜中に香織の寝言で目を覚ました。

「藤原航、早く逃げて!」

「藤原航、絶対に私を探しに来ないで!」

「お願い、もう私のことは構わないで、早く逃げて!」

「藤原航、だめ、だめ...藤原航!」

「藤原航、死なないで、医者はどこ?」

……

彼女はずっと、島田香織は藤原航のことを忘れているのだと思っていた。でも香織の寝言を聞いて、やっと分かった。香織は藤原航のことを心の奥底に押し込めているだけで、理性的に彼との接触を避けているだけだったのだ。