344 彼女に食べさせる

藤原航と島田香織たちが山を下りた時には、すでに日が暮れていた。

山の麓で救助を待っていた看護師たちが全員駆け寄り、陣内美念も駆けつけてきた。

島田香織は唇を震わせながら、陣内美念に向かって言った。「あなたが欲しいサインはバッグの中にあるわ。自分で取ってちょうだい!」

陣内美念は涙が出そうなほど焦り、島田香織の言葉を聞いて呆れた表情で言った。「今はサインなんて言ってる場合じゃないでしょう。」

島田香織は無理に笑顔を作ろうとしたが、何か言おうとした瞬間、そのまま気を失ってしまった。

藤原航の目が暗くなり、不安げに島田香織を見つめた。

傍らの看護師が島田香織の体温を測ると、すでに39度まで上がっていた。

藤原航はそこで初めて、島田香織のダウンジャケットのジッパーがいつの間にか壊れていたことに気づいた。だから今回風邪を引いてしまったのだ。