351 追い払う

陣内美念は首を振り、急いで言った。「何もおかしくありませんよ。事実を言っただけです。」

島田香織が自分のアパートに戻り、陣内美念と夕食について相談していたところ、ドアをノックする音が聞こえた。

陣内美念が前に進み出て、来訪者が林楠見だと分かると、小声で言った。「どうぞ入ってください。」

「誰が来たの?」島田香織はソファで足を組んでゲームをしていたが、ちょうどその試合が終わり、顔を向けると林楠見が見えた。彼女の笑顔が少し薄れ、立ち上がって「林秘書?」と言った。

「島田お嬢様、陣内さん、本当に申し訳ありません、お邪魔して。」林楠見は島田香織の感情の変化を感じ取ることができた。彼は本当に他に方法がなく、やむを得ず来たのだった。

藤原航という人は、頑固な性格で、一度決めたことは誰が説得しても無駄だった。

それに、彼はただの秘書で、どうあっても藤原航に何かできる立場ではなかった。

「何かご用でしょうか?」島田香織は冷淡に尋ねた。藤原航のことは好きではなかったが、怒りを林秘書にぶつけるわけにはいかなかった。

陣内美念は島田香織の冷たい態度を見て、笑顔で言った。「林秘書、さあ、どうぞお座りください!」

林秘書は「ありがとうございます」と言ったが、座らずに再び島田香織を見て、「島田お嬢様、お願いを一つ聞いていただけないでしょうか?」

「私にお願い?」島田香織は眉を少し上げ、その後笑って言った。「林秘書はいつも何でもできる方なのに、私に手伝ってもらうことがあるんですか?」

林秘書は目を伏せ、長い間考えてから、ようやく意を決して言った。「社長が熱を出されています。四十度の熱があるのですが、アパートで横になったままで病院に行こうとしません。できましたら、社長を説得していただけないでしょうか。社長はお嬢様の言うことなら聞いてくれると思うのですが。」

島田香織は林秘書の言葉を聞いて、思わず笑った。「申し訳ありませんが、林秘書、私も病み上がりなので、今はお手伝いできそうにありません。」

林秘書の表情が一瞬で変わった。

島田香織は林秘書の表情の変化に気づかないふりをして、続けて言った。「もう結構です、林秘書。他に用がないなら、お帰りください。私は休みたいので。」

林秘書は体が硬直し、島田香織の言葉を聞いて心が痛んだ。