365 憂鬱

陸田健児は笑顔を崩さず、優しい眼差しで島田香織を見つめながら、「香織、ちょっと話があるんだけど」と声をかけた。

藤原航は島田香織を止めようとしたが、彼女に制止された。

陸田健児は得意げな笑みを浮かべながら、島田香織と少し離れた場所に移動し、静かな声で言った。「塞壁城のことについて、いくつか情報を掴んだんだ。明日、映像資料を渡すよ」

塞壁城。

島田香織はその二文字を聞いた瞬間、胸が痛んだが、すぐにその不快感を押し殺し、笑顔で「わかった」と答えた。

翌日、SNSのトレンド一位はアンナのスキャンダルではなく、島田香織と藤原航の復縁のニュースだった。

SNS全体が島田香織と藤原航の交際について議論していた。

さらに、パパラッチが藤原航が島田香織を家まで送る写真を撮影し、夜通しで記事を書いていた。

藤原航は最近、藤原家の人間ではないことが暴露され、藤原家から追放されたばかりだった。そこに藤原航と島田香織の恋愛模様が加わり、瞬く間に全ての人々の注目を集めることとなった。

さらには、藤原航と島田香織の「同棲」情報まで流出し、事態は一気に過熱した。

島田香織の所属事務所には電話が殺到し、スタッフは対応に追われていたが、当の島田香織には何の影響もないかのようだった。

陸田健児はアンナのベッドの前に立ち、SNSのトレンドを確認してからスマートフォンを閉じ、優しく微笑んで言った。「安心して、トレンドにあなたの名前は出ないから」

アンナは涙を一粒一粒こぼしながら、陸田健児を助けを求めるような目で見つめ、可哀想そうに言った。「お兄さん、昨日、私はあんなことをしてしまって...もう生きていく資格なんてないわ」

陸田健児はアンナの愚痴を待っていたかのように、ベッドの横の椅子に座り、優しく慰めた。「心配しないで。この数日でここを離れれば、時間が経てば誰もこのことを覚えていないよ」

陸田健児の言葉を聞いて、アンナの瞳に一瞬冷たい光が宿ったが、表情は相変わらず可哀想そうなままで、「違うわ、みんな忘れないわ。本当に恥ずかしくて、生きていけない、うぅ」と泣き続けた。