389 私はまだ彼女を追いかけている

田中安尾は藤原航とここで出会うとは思ってもみなかった。彼は藤原航を睨みつけたが、前回鈴村秀美に懲らしめられたせいか、あえて事を起こすことはなかった。

島田香織は田中安尾から視線を外した。彼女と田中安尾は親しくなく、挨拶を交わすほどの間柄ではなかった。

「島田お嬢様」

突然、優しく温かな声が響いた。

島田香織は小山然が彼女に挨拶をするとは思ってもみなかった。島田家と小山家は単なる取引先の関係で、しかも島田家の業務は全て島田根治が担当しており、島田香織は全く表に出ていなかったのだから。

しかし、同じ社交界の人間として、小山然が先に挨拶してきた以上、島田香織は礼儀正しく微笑んで返した。「小山若様」

小山然は穏やかな笑みを浮かべた。「島田社長がよく島田お嬢様のことをお話しされていましたが、百聞は一見に如かずとはこのことですね。噂や写真以上にお美しい方です」