島田香織と藤原航は個室から出てきて、ぶらぶらする気分でもなく、一緒に市街地へ戻ることにした。
島田香織は先ほどの小山然の藤原航に対する敵意を思い出し、車に乗り込んで助手席に座り、シートベルトを締めながら、さりげなく尋ねた。「小山若様とは知り合いなの?」
藤原航は島田香織の言葉を聞いて、彼女の方を向き、鈴木おばあさんの誕生日パーティーでのことを思い出し、唇の端を少し上げて、優しく尋ねた。「気になるの?」
島田香織は冷淡に視線を外し、窓の外を見て、藤原航の相手をする気が失せた。
「以前、ビジネスで一度関わっただけだ」藤原航は小山然が以前は彼に取り入ろうとしていたのに、今では徹底的に貶めようとしていることを思い出した。
藤原航は自分の立場が変わったことで、小山然の態度も変化したことを当然理解していた。
島田香織は藤原航の言葉を聞いて、彼の方を向いて言った。「どうやら、あの時の取引はうまくいかなかったみたいね!」
「確かにうまくいかなかった」
島田香織はそれ以上追及せず、続けて言った。「小山家の力は侮れないわ。気をつけた方がいいわよ」
藤原航は島田香織をじっと見つめ、先ほど小山然が彼を皮肉った時に島田香織が彼を守ってくれたことを思い出し、目に優しい笑みを浮かべて言った。「君がいれば心配ないよ」
「あなたを守るなんて言ってないわよ」島田香織は唇を軽く噛んで、不満そうに言った。「もう遅いわ、行きましょう!」
突然、島田香織の携帯に陣内美念からLINEが届いた。
「香織、もうすぐお正月だけど、今年は藤原航を連れて帰るの?」
島田香織は眉をひそめた。陣内美念は最近やることが多すぎる。今朝は彼女を騙して藤原航に会わせ、今度は正月の実家への帰省の件について聞いてくる。
どうやら陣内美念は暇を持て余しているようだ。
藤原航は返事をして、鍵を回し、やっと車を発進させようとした。
そのとき、誰かが助手席の窓をノックした。
島田香織は藤原航が自分の方を見ているのに気づき、慌てて携帯の画面をロックした。陣内美念からのメッセージを藤原航に見られたくなかった。
藤原航が助手席の窓を下げると、小山然が傘を差して立っているのが見えた。
「島田お嬢様、藤原さんと少しお話させていただけませんか?」小山然は島田香織に笑顔を向けて、静かに尋ねた。