島田香織は胸が痛み、軽くため息をつきながら言った。「私の代わりに陸田健児にお礼を言ってください!」
「はい」奈奈さんは返事をして、外へ向かって歩き出した。
オフィスには島田香織一人だけが残された。彼女は保温容器を見つめ、飲もうとした時、手が容器に触れた瞬間、なぜか陸田健児の家で鍋を食べた時に聞いた怖い話を思い出し、さらに陸田健児の暗く不気味な瞳を思い出すと、思わず身震いした。
島田香織は企画書を手に取り、ソファーに横たわって読み始めた。
読んでいるうちに、いつの間にか眠りに落ちてしまった。
どれくらい時間が経ったのか、ノックの音が聞こえ、彼女はぼんやりと顔の上に乗せていた企画書を脇に置き、眠そうな目で起き上がって「どうぞ」と言った。
今回入ってきたのは奈奈さんではなく、藤原航だった。
藤原航は保温容器を持って入ってきて、島田香織のテーブルの上に置かれた手つかずの保温容器を一瞥し、密かにほっとした様子で島田香織を見た。「島田お嬢様、これは林楠見が作った生姜湯です。体を温めるのにどうぞ」
島田香織は藤原航の言葉を聞いて、頭の中の眠気が一瞬で消え去った。彼女は藤原航を見上げ、唇を軽く噛んで言った。「藤原さん、そんなことまで気を遣わなくていいわ」
藤原航は自然な様子でソファーに座り、生姜湯を一杯注いで島田香織に差し出しながら言った。「私の仕事は既に終わっています」
藤原航はそう言いながら、島田香織が手に持っている企画書に目を向けた。
島田香織はそこで思い出した。彼女は藤原航に一つの仕事しか任せていなかった。現在会社で進行中の主要な業務は把握していたが、それらの業務には十分な人員が配置されていた。
「まずは生姜湯を飲んで、体を温めましょう?」藤原航は生姜湯を島田香織の手に渡し、ついでに彼女が持っていた企画書を脇に置いた。
島田香織は仕方なく生姜湯を受け取り、うつむいてゆっくりと飲んだ。認めたくはないが、林楠見の作った生姜湯は美味しかった。
彼も馬鹿だな、生姜湯は自分で作ったと嘘をついて、手柄を立てることもできたのに。
もちろん、島田香織はこんな考えを藤原航に話すつもりはなかった。
「鈴木グループの件は私が入札に行きましょうか?」藤原航は島田香織の方を向いて尋ねた。