409 また計略にかかる

部屋のドアが少し開いていて、彼は押して入ったが、誰も見当たらなかった。

そのとき、背後のドアが外から閉められた。

藤原航は振り返って見て、眉をひそめながら中へ進んでいった。

ホテルの部屋は夜灯だけがついており、黄色みがかった光が部屋全体をより温かみのある雰囲気にしていた。

突然、バスルームから水の音が聞こえてきた。

藤原航は眉をひそめながら、田中安尾に電話をかけようと携帯を取り出したが、電波が入っていないことに気づいた。

おかしい。

藤原航が困惑していると、突然バスタオルを巻いた中島夏美が、髪を濡らしたままバスルームから出てきた。

中島夏美は藤原航を見ても少しも驚いた様子もなく、明るい笑顔を見せて、優しく声をかけた。「藤原さん、来てくださったのね!」

藤原航は冷たい目で中島夏美を見つめ、その鋭い目には苛立ちが満ちており、暗い表情で尋ねた。「田中安尾はどこだ?」

「田中安尾?そんな人いないわ。ずっと私だけよ!」中島夏美は裸足で一歩一歩藤原航に近づきながら言った。彼女は近くのテーブルに行き、ワインを二杯注ぎ、その一杯を藤原航に差し出した。「藤原さん、せっかく来たんだから、お酒を飲みながら話しましょう。」

藤原航は暗い表情で、ドアの方へ歩き出した。

「藤原さん、無駄な努力はやめましょう。部屋のドアはもう施錠されているわ。出られないのよ。」中島夏美はゆっくりとワインを飲みながら言った。

藤原航はドアを開けようとしたが開かず、彼の瞳は暗さに満ちていた。

「藤原さん、怖がらないで。私はただの子ウサギよ。あなたを食べたりしないわ。」中島夏美はワイングラスを軽く揺らしながら、甘えた声で言った。「藤原さん、オオカミさんと子ウサギのゲームをしませんか?」

中島夏美は言いながら、藤原航の前まで歩み寄り、顔を上げて彼を見つめ、不思議そうに尋ねた。「藤原さん、ずっと心に引っかかっていた質問があるの。今日はちょうどいい機会だから、はっきりさせたいわ。」

藤原航は中島夏美に一瞥もくれず、奥へ歩いていってソファに冷たく腰を下ろした。

中島夏美は藤原航の去り際を見て、瞳に戸惑いの色が浮かんだ。

しかし中島夏美はすぐに平静を取り戻し、自嘲的に笑った。藤原航は今は藤原家の若旦那ではないけれど、彼の骨の髄まで染みついた高慢さは消えていなかった。