430 ドタキャン

突然、オフィスのドアがノックされた。

「どうぞ！」島田香織は即座に思考を切り替え、書類を一つ机の上に置き、落ち着いた声で言った。

奈奈さんはファイルを持って入ってきて、それを島田香織の前に置き、静かに言った。「島田お嬢様、来年のオーディション番組の予算案です。ご確認ください。」

島田香織は書類を手に取った。五十ページほどあり、時間がかかりそうだった。彼女は奈奈さんに座るよう促し、尋ねた。「鈴木グループの買収案件はどこまで進んでいますか？」

奈奈さんは島田香織の意図をすぐに理解した。彼女は以前から藤原航のことを快く思っていなかったので、笑いながら答えた。「藤原社長は鈴木グループと協議中です。まもなく結論が出ると思います。」

島田香織は淡々と相槌を打った。

「分かりました。もう下がっていいです」島田香織は冷淡に言い、会社の新しいイベントの企画書に目を落とした。

三分もしないうちに、藤原航から電話がかかってきた。今夜七時に帝国ホテルで食事に誘いたいとのことだったが、島田香織はためらうことなく断った。

島田香織の考えは単純だった。もうすぐ年末で実家に帰るので、余計な噂を立てたくなかった。

藤原航は続けて言った。「鈴木グループの買収契約を獲得できました。私たち二人のお祝いディナーということで、どうでしょうか？」

島田香織は長い間躊躇した末、ようやく承諾した。

五時過ぎ、島田香織が書類を確認し終えて退社しようとしたとき、奈奈さんが外から入ってきた。

「島田お嬢様、ボニーという方が一階でお待ちです。お嬢様のお友達だとおっしゃっています。」

島田香織は困惑の色を見せた。彼女の知り合いにボニーという名前の人はいなかった。断ろうとした時、奈奈さんが付け加えた。

「ボニーさんは心理カウンセラーのアイリンさんの後輩だそうです。」

それを聞いて、島田香織はアイリンがボニーに伝言を頼んだのだと思い、笑顔で言った。「お通しください。」

十分もしないうちに、奈奈さんはボニーを案内してきて、その後気を利かせて退室した。

オフィスには島田香織とボニーの二人だけが残された。島田香織はボニーと簡単な挨拶を交わした後、ソファに座るよう促した。

「ボニーさん、紅茶と緑茶、どちらがお好みですか？」島田香織は笑顔でボニーに尋ねた。