十一時半になると、島田香織はもう目を開けていられなくなり、体が傾いて、そのまま藤原航の肩に寄りかかってしまった。
江田景はその様子を見て、表情を少し変え、静かに尋ねた。「香織ちゃん、寝ちゃったの?」
藤原航は肩に寄りかかっている島田香織の方を向いて、小声で答えた。「寝ましたね」
そう言いながら、藤原航は慎重に島田香織の頭を支え、より快適な姿勢になるようにして言った。「おじさん、おばさん、この数日は会社が忙しくて、香織が疲れているみたいです。私が部屋まで抱いて行きましょうか?」
島田根治が立ち上がって香織を抱きかけたところ、江田景に袖を引かれ、このような時は藤原航にさせるべきだと気づいた。
可愛い娘がもう自分のものではなくなったのだ。
そう思うと、島田根治は少し居心地が悪くなり、テレビの方を向いたが、目の端では島田香織と藤原航の様子を見ていた。
江田景は藤原航に微笑みかけ、静かに言った。「香織の部屋は三階の一番奥よ」
「はい、おばさん」藤原航は小声で答え、そっと島田香織を抱き上げた。
島田香織は抱き上げられた時、まどろみながら目を開けて藤原航を見つめ、半分夢うつつの状態で、無意識に藤原航の首に腕を回し、習慣的に藤原航の胸に顔を寄せ、もごもごと「航くん」と呼んだ。
島田香織の声は柔らかく、少し甘えた調子を帯びていた。
藤原航の心は一瞬にして溶けてしまい、江田景と島田根治が傍にいることも忘れ、軽く腕の中の人の額にキスをして、甘やかすように言った。「いい子だね、そのまま寝ていていいよ」
腕の中の人は、快適な姿勢を見つけると、もう何も言わずに再び眠りについた。
藤原航は島田香織を抱いて階段を上がっていった。
島田根治は藤原航が行ってから、すぐに顔を曇らせ、不機嫌そうに言った。「あいつ、随分と図々しいな!」
隣に座っていた江田景は島田根治の言葉に笑い出し、まだ気にしている様子の島田根治に近づいて、静かに諭した。「何を気にしているの?香織があんなに彼を頼りにしているということは、藤原航が普段から彼女によくしてくれているってことでしょう。娘のことを心配する必要はないわ」
島田根治は親父の心として、やはり酸っぱい思いを抑えられなかった。「でも、あれは私の大切な娘なんだ」