孫をこんなにいじって、大丈夫なの?

 服部深遠は彼女が最初に絵が贋作だと見抜いたと聞いて、スーツケースを引きずっている少女を何度も見つめ直した。

 「お嬢ちゃん、目が利くね。この絵は贋作だが、七、八割は本物に似せて描かれている。わしも本物を見たことがなければ、すぐには見分けられなかっただろう」

 工藤みやびは軽く笑って、「たまたまです」と答えた。

 ちょうど、彼女もその本物を見たことがあっただけだ。

 「みやこ、あなたは大雑把だわ。こんな大事なこと、ミスしちゃだめよ。もし雅が絵が偽物だと発見していなかったら、明日ウィルソン夫妻に渡してから贋作だと分かったら、藤崎グループの名にどれだけ泥を塗ることになったと思うの?」

 「私も...…予想していませんでした。仲介者が何度も本物だと保証していたので...…」

 丸山みやこは自責の表情を浮かべ、言葉を詰まらせながら説明した。

 藤崎雪哉は助手の岡崎謙(おかざき ゆずる)を見て、「弁護士に連絡を取って、仲介者とオークションハウスに損害賠償を請求しろ。お前の仕事は人任せにするな」と言った。

 この言葉は岡崎謙にも、丸山みやこにも向けられていた。

 「はい、社長、すぐに取り掛かります」岡崎謙は頷いた。

 本来なら、この絵のオークションの件は彼が直接担当するべきだった。丸山みやこが自ら申し出てきたのだ。

 当時、彼も手が一杯で、彼女は藤崎家と親しく、美術を学んでいたので、任せても問題ないと思った。

 もし荒木雅がこんな騒ぎを起こさず、絵が偽物だと発見されなかったら、明日渡した後では、取り返しのつかない事態になっていただろう。

 「兄貴、私がみやこと一緒に行こう。岡崎さんは午後の会議の司会があるでしょ?」藤崎千颯が自ら申し出た。

 今、この絵が贋作だと鑑定されたので、先ほどの賭けによると、彼は荒木雅にお父さんと呼ばなければならないことになる。

 だから、今のうちに立ち去ろうと思った。

 丸山みやこは脇に立っている工藤みやびを睨みつけた。本来なら彼女を懲らしめて、天水ヴィラから完全に追い出すつもりだった。

 結果的に、彼女を不幸にすることはできず、逆に自分の首を絞めることになった。

 藤崎雪哉は服部深遠に自ら茶を注ぎ、「服部さん、急な話で恐縮ですが……プリアンの絵がどうしても必要でして。よろしければ、一点だけでもお譲りいただけないでしょうか?」

 ウィルソン夫妻はプリアンの絵のファンで、今この時点で本物を購入するのは難しい。

 服部さんは多くのコレクションを持っており、一枚譲ってくれれば、なんとか事態は収まるはずだった。

 「いやいや、これらはわしの宝物だ。いくら出されても売るつもりはないぞ」

 服部深遠は自分のコレクションを狙われていると聞くや、お茶も飲まずに立ち去ろうとした。

 藤崎雪哉は服部深遠を説得できないと分かり、それ以上は追及しなかった。

 「岡崎君、服部さんをお見送りして」

 服部深遠を見送った後、藤崎雪哉は工藤みやびに目を向け、眉をひそめながら少しの間じっと見つめた。

 「絵の件はお前に非はない。だが、それでここに居続けていい理由にはならない」

 「分かった。すぐに出て行くわ。二度とあなたの前に現れないから」

 工藤みやびは頷き、きっぱりとそう言い切った。

 藤崎雪哉は腕時計をちらりと見て、藤崎お婆様に別れを告げて、急いで会社に向かった。

 工藤みやびは藤崎お婆様の手配で、荒木雅の学校近くのしらゆりマンションに移った。

 「ここはずっと空いていたの。当分の間、ここに住んでいなさい。最近、雪哉は怒っているから、もう彼を邪魔しないように」

 「はい」工藤みやびは快く承諾した。

 今だけでなく、これからも藤崎雪哉を邪魔することはないだろう。

 「今回はちょっと過激な行動だったけど...…よくやったわ」藤崎お婆様は言い終わると、最後に励ましの眼差しを送った。

 工藤みやびは口角を引きつらせ、「...…」

 よくやった?

 彼女は藤崎雪哉と無理やり一夜を共にしたことを、よくやったと言っているの?

 こんなに孫をいじって、本当にいいの?