脳味噌は腐ってしまったの?

 新しいアパートは、天水ヴィラの豪華さには及びもしなかった。

 しかし、内装は丁寧で、日常生活に必要なものは全て揃っていた。

 工藤みやびは部屋を掃除し、荷物を整理してから、待ちきれずにシャワーを浴びた。

 大人びた化粧を落とし、シンプルなTシャツとジーンズに着替えた。

 18歳の荒木雅は、コラーゲンに満ちた顔をしていた。

 肌は美しい磁器のように繊細で、目鼻立ちは精巧で美しく、唇は桜の花びらのようにピンク色で、少女特有の清らかな美しさを持っていた。

 このような生まれつきの美貌を持ちながら、丸山みやこのアドバイス通り安っぽいキャバ嬢風に仕上げるだなんて。

 荒木雅ったら、脳味噌は腐ってしまったんじゃないの?

 新居で一日休んだ後、我慢できずに大きなウェーブのかかった髪をストレートに戻し、さらに日用品や生活用品を買い出しに行った。

 買い物を終えてアパートに戻ったところ、藤崎お婆様から電話があり、この前会った服部深遠に頼み事をしてほしいと言われた。

 ……

 藤崎グループ本社ビル。

 副社長の藤崎千颯がウィルソン夫妻をホテルまで送り届けた後、会社に戻ると、怒りで胸が苦しくなった。

 「この夫婦はなんて手ごわいんだ。こっちはもう全力で譲歩したっていうのに、まだ何を要求するっていうんだ?」

 ウィルソン夫妻は昨日日本に到着したが、会議は二日間続いているのに、提携の件はまだ決まっていなかった。

 これは数百億規模の大事業で、藤崎グループのサトアラ国での展開にも関わっている。

 もし失敗すれば、損失は甚大だ。

 「服部さんのところは、やはりダメか?」藤崎雪哉は眉をひそめた。

 昨日ウィルソン夫人がプリアンの絵画のことを尋ねたことから、これが重要なポイントのようだった。

 藤崎千颯は焦りながらため息をつき、率直に言った。

 「あの頑固じじいは石みたいなもんだ。もう少しで土下座して頼むところだったのに、絵を一枚も譲ってくれる気配がない」

 たかが一枚の絵なのに、何がそんなに良いのか分からないのに、みんな争って見たがる。

 藤崎雪哉は眉間を押さえながら、「良い茶を用意しておけ。明日は俺が自ら出向く」

 このウィルソングループとの提携計画は、藤崎グループも長い間準備してきたもので、絶対に問題を起こすわけにはいかない。

 「たとえあいつをお父さんと呼んでも、譲ってくれねえだろうな」藤崎千颯は口を尖らせた。

 二人が頭を抱えているところに、丸山みやこがバッグを持って少し疲れた表情で19階に現れ、喜びを隠せない様子で言った。

 「社長、服部さんを説得できました」

 「本当か?」藤崎千颯は興奮して立ち上がった。

 丸山みやこは笑顔で頷き、「服部さんがプリアンの絵を一枚譲ることを承諾し、さらにウィルソン夫妻を自宅に招いて個人コレクションを見せると言ってくださいました」

 藤崎雪哉は頷いて、「明日の午後に設定しよう。君は休んでいいよ」

 ずっと服部さんとの交渉にかかりっきりだったため、丸山みやこは少し疲れた様子で、クマまで出ていた。

 「明日も同行させていただきます。男性同士のビジネス会談の際、ウィルソン夫人には女性が付き添った方が話しやすいでしょう」

 藤崎雪哉は少し考えてから言った。

 「今日はまず休んで、明日また頼むよ」

 丸山みやこは嬉しそうに微笑んで、社長室を後にした。

 藤崎千颯は顎に手を当てながら、興味深そうにつぶやいた。

 「一体どうやってあの爺さんを説得したんだろう。俺たちがどんなに説得しても承諾してくれなかったのに」

 この二日間で何度も服部家に足を運び、口が擦り切れるほど説得したのに、服部深遠は絵を一枚も譲る気配を見せなかった。

 さすが広報部長のみやこだ、こんな手ごわい人まで説得できるなんて。