翌日の午後、藤崎雪哉はウィルソン夫妻を服部深遠の邸宅へ案内した。
服部深遠は日本美術界の重鎮で、ウィルソン夫妻と同じくプリアンの絵画のファンであり、一行は楽しく語り合った。
ウィルソン夫妻にプリアンの絵画を贈っただけでなく、服部家でアフタヌーンティーにも招待した。
ウィルソン夫人は服部家で用意されたデザートを絶賛し、帰り際にホテルで楽しむ分も持ち帰った。
日が暮れる頃、ウィルソンさんは車に乗る直前、たどたどしい日本語でこう言った。
「藤崎さん、今日は...…本当に素晴らしいサプライズをありがとうございました。良い協力関係が築けることを願っています」
「こちらも協力を楽しみにしています」藤崎雪哉は穏やかに微笑んで答えた。
「それと、今日のデザートは本当に美味しかったです。妻が大変気に入りました」
ウィルソンさんはそう言いながら、藤崎雪哉と握手を交わした。
「では、また明日お会いしましょう」藤崎雪哉は相手と握手を交わし、彼らが車に乗り込むのを見送った。
藤崎千颯は、ウィルソンのアシスタントが持ち帰ったケーキの半分を惜しそうに見つめていた。このケーキは甘党の彼のお気に入りだったのだ。
彼は終わった後、服部家からケーキをもらって自分へのご褒美にするつもりだった。
なのに、ウィルソン夫人に持っていかれてしまって、心が痛んでならなかった。
丸山みやこはウィルソン夫妻の車が去るのを見て、笑いながら言った。
「ウィルソンさんがさっきあのように言ってくださったので、この取引は成立したということですね」
「それでも駄目だったら、あの絵とお菓子、全部ドブに捨てたってこと?」藤崎千颯は鼻を鳴らした。
恩を受けた者は弱みを握られる。
好きな絵をもらい、美味しいアフタヌーンティーも楽しんだのだから、承諾しないわけにはいかないだろう?
藤崎雪哉は丸山みやこを横目で見て、「今日の段取りは見事だった」と言った。
丸山みやこは優雅に微笑んで、「絵の件は私が原因でしたから、埋め合わせをさせていただいただけです」と答えた。
「この二日間、苦労をかけた。しばらく休暇を取るといい」と藤崎雪哉は言った。
これからは双方の協力会議があり、広報部が関与する必要はない。
「正式な契約が終わってからにしましょう。ウィルソン夫人とのコミュニケーションは私の方が都合がいいですから」
今日のことで藤崎雪哉の好感度を十分に上げることができた。もちろん、この機会に彼との関係をさらに進展させなければならない。
藤崎奥様は彼女のことを大変気に入っている。彼女と藤崎雪哉の関係がさらに進展すれば。
藤崎夫人の座は、彼女以外にありえない。
荒木雅のあの間抜けのおかげで、あの絵が偽物だと分かった。
それどころか、服部さんをうまく丸め込んで今日のアフタヌーンティーを実現させ、藤崎雪哉と会社の皆の評価を上げることができた。
「それもいいだろう」藤崎雪哉は頷き、藤崎千颯の方を見て、「服部さんへの品は用意したか?」と尋ねた。
「もちろん、バッチリ用意してある」
藤崎千颯は車から骨董品を取り出し、兄について服部深遠にお礼を言いに服部家に入った。
一行は服部家の和風の庭で、鯉に餌をやっているお年寄りを見つけた。
「服部さん、本日は本当にありがとうございました。このお礼の品をお受け取りください」
「服部さんの絵を見て、ケーキも食べて、あの夫婦の態度が大きく変わりましたよ」
藤崎千颯は興奮気味に言った。今回の協力は藤崎グループがサトアラ国の市場で確固たる地位を築けるかどうかに関わる重要なものだった。
服部深遠は鯉の餌やりを終え、手を拭いながら言った。
「お礼なら結構だ。雅ちゃんがすでに礼を済ませているし、ケーキも彼女が持ってきたものだ。感謝するなら、彼女にしなさい」
藤崎雪哉は鋭い目を細めて、「荒木雅、ということですか?」と尋ねた。