藤崎千颯は呆然と服部深遠を見つめ、そして丸山みやこの方を向いた。
「みやこが服部さんを説得したんじゃない?」
どうして荒木雅のようなブスと関係があるんだ?
丸山みやこも困惑した表情で、「私はずっと服部家の近くにいましたけど、雅には会っていませんよ」
そもそも、自分でさえ服部さんを説得できなかったのに、あのバカ女に何ができるというの。
藤崎千颯はそれを聞いて、面白そうに服部深遠に尋ねた。
「服部さん、あなたが言っているのは雅ちゃんですか、それともみやこちゃんですか?」
もしかして言い間違えて、丸山みやこのことを言っているのかもしれない。
「荒木雅のことだ。丸山なんて知らん」と服部深遠は彼を睨みつけた。
丸山みやこの表情が曇ったが、それでも笑顔を保っていた。
「服部さん、昨日は確かに私に一枚の絵を譲ってくださると言いましたよね」
服部深遠は思い出したように言った。
「昨日雅が用件だけ伝えてすぐ帰ったんでな、わしがあんたに伝言を頼んだだけだよ」
藤崎千颯はまだ納得がいかず、さらに尋ねた。
「服部さん、あなたが言っている荒木雅というのは、私たちの家で見かけたあの子ですか?」
「他に誰がいるってんだ?」
丸山みやこの顔が恥ずかしさで真っ赤になり、まるで無形の平手打ちを食らったかのようだった。
くそっ、また荒木雅か。
前に彼女が買った絵が贋作だと言われて、すでに面目を失っていたのに。
今日は、せっかく藤崎雪哉に築きかけた好感も、これで台無しだ。
服部深遠が言った。「贈り物はもういい、その代わりに一つだけ答えてくれんか?」
藤崎雪哉は深い瞳で「どんな質問ですか?」と聞いた。
服部深遠は真剣な表情で藤崎雪哉と藤崎千颯を見つめ、尋ねた。
「雅ちゃんはお前らとは何の関係もないんだよな?」
「どういう意味ですか?」藤崎千颯は少し困惑した。
「つまり、彼女はお前らどっちかの彼女とか、そういう関係じゃないよな?」
「違います、絶対に違います。あんな子、誰が付き合うんですか、悪夢見ますって!」
藤崎千颯は荒木雅のことを思い出し、何度も首を振って否定した。
関係があるとすれば、兄が彼女とワンナイトを過ごしたことくらいだ。
服部深遠は彼の答えを聞いて、満足げに頷いた。
「ならよかった、ならよかった。わしの孫がずっと彼女みたいな子を探しててな……賢くて綺麗、きっと気に入るじゃろう」
「服部さん、それは本当のお孫さんですか?そんなひどいことするなんて」
藤崎千颯は服部深遠が荒木雅を孫の彼女として紹介しようとしているのを聞いて、お腹を抱えて笑った。
荒木雅のあの醜い姿で、どこが綺麗なんだ。
服部さんが彼女を孫に紹介するなんて、完全に害悪を除去しているようなものだ。
藤崎雪哉は何も言わず、そのまま車に乗って去っていった。
丸山みやこは一人残され、荒木雅のことを歯ぎしりするほど憎んでいた。
……
しらゆりマンション。
工藤みやびはテレビで放送中の青春ドラマを見ながら、吐き気を催すように作りたてのラーメンを置いた。
主演女優の竹内薫乃(たけうち ゆきの)は、日本で最近注目を集めている若手女優だ。
そして、荒木雅の異母姉でもある。
竹内薫乃の母親である中山美琴(なかやま みこと)は、もともと辺境の山村の貧しい学生だった。
荒木家の援助で帝都に来て大学に通い、偶然にも彼女の母親である荒木遥香(あらき はるか)と同じ学校で、すぐに親友となった。
荒木家は中山美琴の大学卒業を支援し、さらに海外留学も援助し、帰国後は隆成グループの幹部として採用した。
しかし、中山美琴は恩を忘れ、すぐに荒木遥香の新婚の夫である竹内家成(たけうち いえなり)と不倫関係を持った。
二人は十数年もの間密かな関係を続け、二人の子供まで作った。
真相を知らない荒木遥香は、中山美琴を娘の名付け親にさえした。
一年前、荒木遥香が二人の関係を発見し、荒木雅を連れて出て行こうとした時に事故に遭った。
荒木遥香は即死、荒木雅は重傷を負い数ヶ月意識不明だった。
彼女が目を覚ました時には、中山美琴はすでに二人の私生児、竹内薫乃と竹内彩(たけうち あや)を連れて堂々と荒木家に住み着いていた。
そして彼女、荒木家の正統な令嬢は、家から追い出され、身を寄せる場所もなくなった。
今、彼女は荒木雅として生きており、荒木家に属する全てのものを取り戻すつもりだ。